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シャープOB、中小で再び咲く(関西は今)

大阪府の「プロ転職支援」1年 50・60代、技術の伝道者に

大企業でも業績不振となればリストラを余儀なくされる厳しい時代。例えば、シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入る以前の2015年に3000人超の希望退職に踏み切った。中年層の再就職は簡単ではないが、ここにきて、中堅・中小企業が経験や知識に着目し、即戦力として採用する例も出てきた。その一助となったのが、大阪府が1年前にスタートしたプロ人材の再就職支援事業だ。人材流動化は地場産業の活性化にも一役買いそうだ。

家具金物からゲーム機部品までを扱う共栄金物製作所(大阪市)は従業員11人のうち2人がシャープ出身者だ。10年前から商品開発や設計を強化しており「会社を大きくする基礎固めに採用した」(明石真佐臣社長)。

設計開発担当の嘉成真澄さん(61)はシャープ入社後40年のうち約25年をデザイン部門で勤め、ノートパソコン「メビウス」の設計に携わった。その経験を買われ、現在は社内で3D(3次元)デザインの"伝道師"の役割を担っている。「転職で収入は半減した」が、シャープに残った妻と共働きで家計を支える。

品質管理担う

「緩まないネジ」が新幹線や東京スカイツリーに採用されたハードロック工業(大阪府東大阪市)は「品質保証を大手取引先に求められ、管理する人材を必要としていた」(林雅彦取締役企画部長)。重責を任せたのが藤田浩一さん(56)だ。

シャープ時代は奈良工場(奈良県大和郡山市)でデジタル複合機の技術管理を担い、各部門の技術者との協議にあたった。「品質保証も製造現場の各部門との連携が重要。経験を生かせてありがたい」

こうした転職を後押ししているのが大阪府だ。国は15年度、地方への人材移転を促すために東京都を除く道府県別に「プロフェッショナル人材戦略拠点」を設置する予算を計上。これを受け、府は16年1月、エル・おおさか(大阪市中央区)に同拠点を設けた。担当者らは中小企業を訪れて採用したい人材を聞き取り、紹介会社を通じて大企業からの転職を促す。

府には同年12月末までに321人の求人相談があり、18%の58人が転職できた。転職の実績は大半の府県より多い。シャープ出身者はそのうち19人を占め、1社からの転職者数では最多だ。

制度の利用に年齢制限はないが、知識や経験がものをいうだけに、契約が成立した事例の62%を50代以上が占めた。府は「専門知識を持つ50代を採用した中小企業は成長できる」と期待する。

経営者を補佐

食材用切断機器(スライサー)を製造する吉泉産業(大阪府枚方市)もその1社。佐々木啓益社長が「同じ技術レベルで話せる」と評するのが副部長の宮本茂雄さん(56)。シャープで家庭用ファクスの技術を担当したが、最後の8年間は技術部門を離れ、再び設計や開発に戻りたいと考えて転職。吉泉産業は社員からの新製品などの提案を社長とともに審査する目利きとして採用した。

ただ技能を認められ、転職に成功した人ばかりではない。大阪労働局は15年8月にシャープとグループ・下請け企業向けの特別相談窓口を設け、760人が府内ハローワークに登録した。1年内に再就職したのは15%の115人。働き先を探し続けたり再就職をあきらめたりする人も多い。

シャープは人材流出を受け、16年に自己都合などで退職した技術者を再雇用する制度を始めた。超高齢化社会では、60歳で定年を迎えて後は悠々自適というのは難しい。シャープからの転職者の事例だけでなく、中年層以上の経験や知識をどう社会で生かしていくかを考える時期に来ている。

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