大型買収再び、武田の賭け 米製薬を6200億円で

2017/1/10 23:59
保存
共有
印刷
その他

武田薬品工業が再び攻めに転じた。がん治療薬を手がける米製薬のアリアド・ファーマシューティカルズの買収を発表。6年ぶりの大型案件を決めたクリストフ・ウェバー社長兼最高経営責任者(CEO)は10日、日本経済新聞の電話取材で「さらに企業買収する財務的な柔軟性はある」と語った。次はがんと並ぶ柱の消化器、中枢神経分野に照準を合わせそうだ。

1~2月にTOB(株式公開買い付け)で完全子会社にする。買収額は約54億ドル(6200億円)。2008年に米バイオ医薬のミレニアムに約9千億円、11年にスイスのナイコメッドに1兆1千億円を投じたのに次ぐ3番目の規模だ。14年6月のウェバー社長就任後で初の大型買収となる。

「事業構成は理想の形に近づいた」。呼吸器薬、特許切れ薬、臨床検査・研究用試薬……。ウェバー社長はまず非中核事業の売却を優先してきた。それが一巡し、注力分野で攻める体制が整ったというのだ。

武田の収益力は大きく落ちた。連結営業利益の過去最高は07年3月期の4585億円。それが17年3月期予想は前期比3%増の1350億円と3分の1以下だ。売上高は3割弱伸びたのに、営業利益率は3割強から8%に下がる。大型の自社開発薬の特許が相次ぎ切れ、日本政府が後発薬普及を後押しする逆風が吹く。ウェバー社長は「医療費抑制は欧米も同じ。革新的な医薬品を作れなければ収益を上げられない」と危機感を示す。

その革新的な医薬品がアリアドにあると武田は見る。手薄の血液がん治療の製品群が増え、非小細胞肺がんの治療薬も17年に米国で発売できる見込み。武田が持つ大腸がんや骨髄腫、乳がんの抗がん剤とも重複しない。

ただ、アリアドの15年12月期の売上高は1億1880万ドル、営業損益は2億1727万ドルの赤字。売上高130億円強の赤字企業に6200億円を投じるのは一種の「賭け」だ。だが武田にはミレニアムの大腸炎治療薬が稼ぎ頭に育った成功体験がある。アリアドが臨床試験中の肺がん治療薬は年10億ドル超の売上高が期待できるという。

財務体質の悪化懸念はある。格付投資情報センター(R&I)とムーディーズ・ジャパンは10日、武田の発行体格付けを格下げ方向で見直すと発表。買収資金のうち最大40億ドルを借入金で賄う計画で「資本負債構成に与える影響は小さくない」(R&I)と判断した。大和証券の橋口和明シニアアナリストは「肺がんの新薬が想定通りに拡大するかがポイント」としつつ、競合薬が複数あり「拡大は簡単ではない」と指摘する。

がん領域に強く、米ファイザーと世界首位を争うスイスのノバルティスは15年の売上高が5兆円超。武田は世界トップ10にも入らず、さらなる買収戦略は欠かせない。ウェバー社長は「戦略に合致すれば、財務的に今後も買収は可能」と話す。

破談したが、昨年はカナダ企業の胃腸薬事業買収を検討。合意すれば1兆円超の案件だったとみられる。これを見ても消化器や中枢神経の強化に関心があるのは確実。財務リスクを制御しながら、大勝負をかける経営力がさらに必要となる。

(早川麗、増野光俊)

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]