高齢者医療、負担増綱引き 与党は選挙控え慎重
厚生労働省は30日、社会保障審議会(社保審)に70歳以上の医療費負担を引き上げる見直し案を提示した。患者負担の上限を定めた「高額療養費制度」は同省が中所得の自己負担の上限引き上げを目指すのに対し、与党内には慎重論が強く、残された争点になっている。政府・与党が12月上旬まで調整を続けるが、着地点は予断を許さない状況だ。
厚労省はこの日、複数の高額療養費見直し案を示したが、落としどころとみているのが一定以上の所得がある人の負担を引き上げる案だ。
2017年8月から、外来受診時の月額上限を年収370万円以上の高所得者は現在より1万3200円増やし5万7600円にする。住民税が課税される中所得者も同1万2600円増の2万4600円だ。
中所得者は入院時の月額上限も引き上げる結果、負担増となる高齢者は約1400万人にのぼる。それでもこの日は委員から医療保険の持続性を高めるためには「やむを得ない」などと容認する声が相次いだ。
だが厚労省案がすんなり通る可能性は小さい。与党の公明党は低所得者だけでなく、中所得者の負担増にも慎重姿勢を強めているからだ。
30日に国会内で開いた同党の会合では「一気に引き上げるべきではない」などと厚労省案への反発が相次いだ。桝屋敬悟党厚労部会長は「高齢者の医療ニーズが現役世代より高いことに着目した支援策なのに、維持しないのはおかしい」と指摘した。
同党が反発する背景には、来年夏の東京都議選に悪影響が及ぶとの懸念がある。国政選挙並みに力を入れており、負担増を前面に出したくない。自民党厚生労働部会も30日、2017年度予算案に関して社会保障費の高齢者の負担拡大に慎重な対応を求める決議をした。
中所得者の負担増の幅をある程度、圧縮することなどで折り合う可能性もあるが、落としどころはまだ見えない。
18年8月以降についても厚労省が高所得の高齢者の月額上限を最大25万円と今の6倍近くに引き上げる案を示しているが、17年改正で精いっぱいでそこまで議論がたどり着きそうにない。
厚労省が高齢者に負担増を求めるのは17年度予算で高齢化に伴う社会保障の伸びを5000億円程度に抑えるよう求められているためだ。夏の概算要求より1400億円分抑制する必要がある。高額療養費の見直しは350億円の伸び抑制につながる「大玉」だが、見直しが後退すると目標達成が危ぶまれる。
社保審では75歳以上が加入する後期高齢者医療制度で、特例的に実施している保険料軽減のための措置を段階的に廃止する案も示した。
低所得者や専業主婦ら扶養家族だった人向けの特例を17年度から段階的に廃止する。329万人が負担増になる。高齢者らが長期入院する療養病床については、65歳以上の比較的症状の軽い入院患者には光熱水費負担を50円引き上げ、1日370円にする。