中国、巨大化学へ国有大手2社合併案 欧米に対抗
農薬強み、売上高10兆円超
中国で国有化学大手2社を合併させ、巨大メーカーを誕生させる構想が浮上した。2社は石油から農薬、肥料までを幅広く手掛ける中国中化集団(シノケム)と、海外企業を相次いで買収する総合化学の中国化工集団(ケムチャイナ)。両社の売上高は合計で年10兆円を超える。世界の化学業界で大規模なM&A(合併・買収)が相次ぐなか、政府の後押しで国際競争力を高める狙いとみられる。
ロイター通信などが14日、2社が合併に向けた交渉に入ったと伝えた。中国の習近平国家主席が11日に国有企業の強化を指示しており、政府の意向に従って検討が進んでいるとみられる。
シノケムは石油製品の輸入を手掛ける専門企業から成長した石油化学大手。中国の化学肥料市場で約2割のシェアを占め、農薬事業にも強みを持つ。近年は石油権益の獲得に力を入れており、仏石油大手トタルから南米コロンビアの権益などを取得した。
資源価格の下落や化学肥料の生産能力過剰問題から業績が悪化しており、2015年の売上高は前年比24%減の3812億元(約5兆9000億円)。税引き前利益も半分の60億元まで落ち込んだ。今年2月には中国共産党当局が蔡希有総裁(当時)を「重大な規律違反」で調査した。
シノケムの再建を巡っては、豊富な海外石油権益を抱えるため、中国海洋石油総公司(CNOOC)が関心を寄せていた。両社は合併に向けた研究に着手したともいわれていたが、時間がかかっている。そのため国務院(政府)傘下で大型国有企業を管轄する国有資産監督管理委員会(国資委)が新たな候補として検討を始めたとみられるのがケムチャイナだ。

ケムチャイナは04年に当時の化学工業省傘下の企業が統合して設立した総合化学メーカー。15年3月にイタリアのタイヤ大手ピレリを9200億円で買収すると発表して世界的に知られる存在となった。15年の売上高は2602億元だが、買収先も含めると合計で450億ドル(約4兆7千億円)に達するとしている。
ケムチャイナの拡大路線は止まらない。今年2月には農薬世界最大手シンジェンタ(スイス)の買収を発表し、世界を驚かせた。中国企業の国外企業買収では過去最大の5兆円以上を投じる。国資委は成長するケムチャイナにシノケムを任せる意向とも読み取れるが、シノケムの広報担当者は合併について日本経済新聞に「事実ではない」とコメントするにとどめた。
中国政府は業界ごとに合併を促し、上位1~3社への集約を目指しており、現在約100社の大型国有企業を20年までに40社程度に再編・集約する構想を持つとされる。鉄道車両、原子力、海運、資源でM&Aを実現しており、最近では国有鉄鋼大手、宝鋼集団と武漢鋼鉄集団の経営統合が発表されたばかりだ。
化学分野では世界的な再編が加速している。15年12月に米デュポンと米ダウ・ケミカルが経営統合を決め、今年6月には独バイエルが遺伝子組み換え種子世界最大手の米モンサントの買収を発表した。企業規模の拡大で世界市場で競争が激化しており、中国政府は合併を後押しすることで欧米大手への対抗をめざす。
習主席は11日、自身がトップを務める「全面深化改革指導小組」の会合を開き、「国有企業を一層強く、一層良く、一層大きくする」と指示した。国有企業の役割が拡大するとみられるだけに、民間企業の成長をどう促すかが問われる。
(重慶=多部田俊輔)