京セラ、理研と毛髪再生医療 20年実用化目指す
京セラは理化学研究所などと組み、脱毛症を再生医療技術で治療する共同研究に乗り出す。患者から採取した健康な毛髪の細胞を加工、増殖した後に患者に移植する手法で、理研がすでに動物実験で実証している。京セラは電子部品で培った微細加工技術を生かして細胞の自動培養装置を開発し、2020年に細胞の受託製造事業への参入をめざす。
脱毛症に悩む人は国内で男女あわせて1800万人以上いるという。将来の臓器再生につながるとされる毛髪再生での手法確立をめざす。
12日、理研のほか、再生医療ノウハウを持つベンチャーのオーガンテクノロジーズ(東京・港)と組み、18年3月までに装置の試作機を開発すると発表した。20年までにヒトを対象とした臨床研究をする計画だ。
理研は毛がないマウスに加工・増殖したヒトの細胞を移植し、発毛させる実験に世界で初めて成功している。皮膚内で毛髪を生む「毛包」と呼ぶ部分の2種類の幹細胞を分離し、加工して作った再生毛包を移植する手法をヒトに応用する。
現在も後頭部など正常な毛包を脱毛部に移植する手術はある。だが頭皮の切除面積が大きくなる課題があった。
理研の手法は毛髪細胞を100~1千倍に増やせるため切除部が小さくて済む。自らの細胞を使うので、人体への危険性は実用化済みの皮膚や軟骨の再生医療製品と同程度に抑えられるという。
事業化には細胞の精密加工技術や大量に培養する量産技術が必要だ。京セラは精密部品の加工技術のほか、人工関節などの医療事業も手掛ける。業務用インクジェットプリンターでインクを精密に射出する技術も生かす。医療機関から患者の頭皮組織を預かり、約3週間かけて加工・培養したうえで医療機関に出荷する製造受託事業を20年をめどに始める計画だ。
ただ今回の毛髪の再生医療は保険が適用されない自由診療での実用化をにらむ。実用化された再生医療製品でみると、テルモの心不全治療に使う「ハートシート」は標準治療の価格が1400万円強と高い。だが保険適用となったため患者の自己負担は治療費の1~3割で済み、高額療養費制度の対象にもなる。
量産効果が効かない初期段階では、毛髪の再生医療の自己負担は高額になる可能性がある。