できない仕事はない 咲くか女性活躍社会(ルポ迫真)

2016/6/14 3:30
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「女性社員の働き方で悩んでいることはありませんか」。6月1日の午前、大津市郊外にある東レ滋賀事業所。同社初の女性の理事となった堀之内晴美(56)は工場長らと向き合い、女性社員の勤務状況を聞き取った。夏に開催する若手女性社員向け懇談会の内容を詰めるため全国の工場を行脚する。懇談会を企画するのは「会社のお仕着せでなく女性が自ら動かなければいけない」と考えるからだ。

建設現場で約50人を指揮する大成建設の女性社員(東京都品川区)

キャリアの追求や子育て、介護……。女性が抱える目標や悩みは一人ひとり異なる。自身は育児と仕事の両立で睡眠時間が1時間を切ったこともあったが、同じ働き方を後輩には求めない。「すべての女性がスーパーウーマンにならなくてもいい」。おのおのの資質に合った働き方ができるよう、そっと背中を押す。

2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%に高める――。首相の安倍晋三(61)は女性管理職登用を日本再生の旗印の一つにした。従業員301人以上の企業などに女性管理職の数値目標を義務付ける女性活躍推進法の施行からあす15日で2カ月半。各社が取り組みを加速している。

東京のJR目黒駅前にある再開発地区。10日午前8時の始業に合わせて大成建設の春藤治美(28)は約500人が働くマンション建設現場に入った。約50人の作業を監理する現場監督。現場ではポンプを運ぶ力仕事もする。それでも指先をネイルアートで飾るおしゃれは忘れない。「男性との会話のきっかけにもなるし夏の日差しから指先も守ってくれる」と笑う。

春藤も入社当初は現場の作業員から「なぜ女性が」と白い目で見られた。しかし持ち前の明るさで現場に溶け込もうとした。会社も女性用トイレを増やし、作業服のデザインを工夫した。現場責任者は10年間で10倍の140人に増えた。

神宮外苑を見下ろす東京・青山の伊藤忠商事の本社ビル。10日の午後5時すぎ、生鮮食品戦略室に勤める高寿梨花(32)は机の書類を手早く片付け、保育所に預ける1歳の長男を迎えに帰宅の途についた。しかし高寿に冷たい視線を向ける社員はいない。同僚も無駄な残業をせず午後8時までに帰宅するからだ。「気兼ねせず帰宅できる環境が有り難い。仕事する意欲が高まってきた」

早朝出勤を奨励する勤務制度を13年から本格導入した。働く女性の支援制度を拡充してきたが、採用・人材マネジメント室長の甲斐元和(45)は「制度だけを充実しても意味はない。男女を問わず働きやすい企業風土を整えなければいけない」と説く。長年の長時間労働との決別が女性の活躍を後押しする。

政府は女性の活躍や管理職登用を促す大号令をかける。ただ現実の登用比率は大企業ですら10%に及ばず、目標への道のりは遠い。そもそも数値目標を作成することについても、それが独り歩きしかねないことを懸念する声が専門家から出ている。男女共同参画の問題に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の矢島洋子(49)は「周囲の理解が不十分なまま登用しても、女性本人に負担をかけるだけだ」と指摘する。

人手不足に悩む地方の中堅企業では、増やしたくても増やせない事情もある。広島県福山市のジーンズ素材メーカーのカイハラ。グループ従業員約700人のうち女性の管理職は1人。深夜を含む勤務体系が女性の活躍を妨げてきた。一方、社運をかけて建設したタイ工場の従業員は多くが女性。「タイの現場を指揮する女性リーダーを育てなければ」。会長の貝原良治(73)は思案する。

管理職に昇進する女性が増えているとはいっても、トップにまで上り詰める女性は多くはない。その数少ない一人が東北の食品スーパー、マックスバリュ東北の社長に5月中旬に就任した佐々木智佳子(56)だ。

キャリアのスタートはレジ打ちだった。総菜の開発、店長、店舗運営の責任者など「向き合う仕事が楽しかった」。周囲の理解も幸いした。佐々木は主婦らパート従業員にこう伝えるつもりだ。「女性という理由でできない仕事はない」

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