東大・京大・東北大、極微細トランジスタ構造で1個の水分子の量子回転運動の検出に成功
発表日:2022年01月06日
極微細トランジスタ構造で1個の水分子の量子回転運動の検出に成功
1.発表者:
平川 一彦(東京大学 生産技術研究所 附属光物質ナノ科学研究センター 教授/ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構 機構長)
杜 少卿(東京大学 生産技術研究所 特任助教)
村田 靖次郎(京都大学 化学研究所 教授)
橋川 祥史(京都大学 化学研究所 助教)
平山 祥郎(東北大学 先端スピントロニクス研究開発センター 総長特命教授)
橋本 克之(東北大学 大学院理学研究科 助教)
2.発表のポイント:
◆1個の水分子を包み込んだカゴ状のフラーレン分子(H2O@C60)に電極を形成して、分子を流れる電流を測定したところ、水分子の量子力学的な回転運動の検出に成功した。
◆電流を運ぶ電子と水分子が相互作用すると、水分子が2つの核スピン異性体(水素原子の各スピンの向きが異なる)間で揺らぐことを見出した。
◆単一の分子や原子の量子状態を制御し、また読み出すことができれば、それらに量子情報を担わせることができる。今回の成果は、分子の回転運動や原子の持つ核スピンの情報を電流で読み出すことに成功したものであり、将来的には1個の原子が持つ量子状態を情報の媒体とする量子情報処理の基盤技術につながると期待される。
3.発表概要:
東京大学 生産技術研究所の平川 一彦 教授、杜 少卿 特任助教、京都大学 化学研究所の村田 靖次郎 教授、橋川 祥史 助教、東北大学 先端スピントロニクス研究開発センターの平山 祥郎 総長特命教授、東北大学 大学院理学研究科の橋本 克之 助教を中心とする研究グループは、電流計測により水分子の回転運動の検出に成功しました。
近年、量子情報処理技術において、分子や原子の量子状態に情報を担わせることが検討されています。1個の酸素原子と2個の水素原子からなる水分子(H2O)は構造の単純さゆえ、量子技術への応用に適しています。しかし、これまでは、水分子同士が形成する水素結合のために、単一の水分子の量子状態を測定することは困難でした。
今回、1個の水分子がカゴ状のフラーレン分子(注1)に内包されたH2O@C60分子に、原子スケールのギャップを持つ電極を形成し、H2O@C60単一分子トランジスタ構造(注2)に流れるトンネル電流を計測することにより、水分子がフラーレン分子内で行なう量子力学的な回転運動の検出に成功しました(図1、2)。
水分子には、2個の水素原子の核スピンの向きが平行な状態(オルソ)と反平行な状態(パラ)の2つの核スピン異性体(注3)が存在することが知られていますが、H2O@C60単一分子トランジスタに流れるトンネル電流から、2つの核スピン異性体の状態が数分以下の時間スケールで揺らいでいることを見出しました(図3)。
この計測技術は、単一分子・単一原子が持つ量子情報を読み出すための基盤技術となるもので、将来的には1個の原子が持つ量子状態を情報の媒体とする量子情報処理技術につながると期待されます。
※以下は添付リリースを参照
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添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/624938/01_202201061510.pdf