東大、グラファイトを用いた3次元的な熱流制御により超高性能ヒートスプレッダを実現
発表日:2021年10月22日
グラファイトを用いた3次元的な熱流制御により超高性能ヒートスプレッダを実現
~パワー半導体の高効率放熱への活用に期待~
1.発表者:
許 斌(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任助教)
Liao Yuxuan(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任研究員)
方 正隆(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任助教)
長藤 圭介(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 准教授)
児玉 高志(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任准教授)
塩見 淳一郎(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 教授)
2.発表のポイント:
◆ グラファイトの熱伝導率は面内方向には高いが、面直方向には低いため、等方的な放熱が要求されるパワー半導体(注1)の熱マネージメントへの利用は困難でした。
◆ 異なる向きのグラファイト材を加工して3次元的に組み立て、銅と一体焼成して接合することで、実効的に等方的な放熱性を付与することに成功しました。
◆ 実装を模擬した放熱試験を実施し、熱伝導率900W/m-Kの等方性材料と同等の非常に高い放熱性能を実現しました。
3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授、許斌特任助教、Liao Yuxuan 特任研究員らの研究グループは、パワー半導体の高い放熱性能の実現に向けて、異なる配向のグラファイト材を重ねて接合したヒートスプレッダ(注2)を開発し(図1(b))、グラファイト本来の異方的な熱伝導(注3)を等方的に変換することに成功しました。本ヒートスプレッダを用いてデバイスの放熱試験を行った結果、900W/m-Kの熱伝導率を有する等方性材料と同等の性能を達成しました。
パワー半導体の高性能化および高集積化が進む中で、発生する高密度の熱を効率的に放熱する高熱伝導率のヒートスプレッダが重要です。そこで、低コストで高面内熱伝導率(~1500W/m-K)を有するグラファイトが有望な候補として注目されています。しかし、効率的な放熱を実現するには、ヒートスプレッダの面内方向だけでなく、面直方向への高い熱伝導、すなわち、等方的に高い熱伝導が求められています(図1(a))。グラファイトはc軸方向の熱伝導率が5W/m-K程度と低いため、実用化が制限されています。そこで本研究グループは、異なる向きのグラファイト材を組み立てた構造を用いて3次元的に熱流を制御し、等方的で高い熱伝導を実現する方法を考案しました(図1(b))。まず、有限要素法(注4)を用いて、グラファイト材の3次元構造による熱流がヒートスプレッダの放熱性能に与える影響を理論的に評価し、向きの異なる2つのグラファイト材を重ねた構造(図1(b))が最適であることを明らかにしました。そして、真空チャンパー内での高温焼成により、銅のマイクロ粒子をバインダー層としてグラファイト材を接合して組み立てることに成功し、熱伝導率が900W/m-Kの等方材料と同等の放熱性能を実験的に実現しました(図1(c))。
本研究で開発した低コストと高放熱効率を両立するグラファイトの3次元複合構造化によるヒートスプレッダは、パワー半導体の熱マネージメントの向上を通じて、様々な産業で活用されることが期待できます。
本研究成果は、2021年10月21日午前11時(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Reports Physical Science」のオンライン速報版で公開されます。
※以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/619972/01_202110201523.pdf
関連リンク