名大と東大、脳腫瘍の悪性化を抑える最適な治療法を解明
発表日:2021年07月31日

脳腫瘍の悪性化を防ぐ最適な治療法を解明!
~数学的アプローチにより明らかとなった症例毎に異なる最適治療戦略~
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科・脳神経外科学の青木恒介(あおきこうすけ)特任助教、夏目敦至(なつめあつし)准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻の波江野洋(はえのひろし)特任准教授らは、数学的解析を用いて、低悪性度IDH変異神経膠腫(※1)の悪性化を抑えるのに最適な治療法を明らかにしました。
びまん性神経膠腫(※2)は、最も多い脳腫瘍の一つで難治性の腫瘍です。その中で、低悪性度IDH変異神経膠腫は30~40代に好発し、当初は緩徐に大きくなりますが経過中に悪性化し生命を脅かします。手術と共に、化学療法や放射線治療が腫瘍の増大を抑える一方で、これらの治療法は遺伝子変異を引き起こすことで悪性化を引き起こしてしまう可能性も報告されております。それぞれの患者さんに対して、どの治療をどのタイミングで行うのが悪性化を防ぐために最適な治療であるかはわかっておりません。
本研究では、日本の10施設にて治療を受けた276名の低悪性度IDH変異神経膠腫患者さんの経過中の全てのMRIデータと治療歴を用いて、腫瘍進行に関する数理モデル(※3)を構築し、同時に網羅的な遺伝子変異解析を行いました。これらの解析により、腫瘍細胞の遺伝子変異の数は悪性化のリスクと強く関連していること、化学療法や放射線療法などの術後治療は腫瘍の成長を抑制するものの、細胞あたりの悪性化のリスクを増加させることがわかりました。さらに、症例毎に悪性化を防ぐ理想的な治療法が異なることを初めて示すことができました。小型の腫瘍(初回手術時体積が50cm3以下)では、手術後速やかに化学療法と放射線療法を開始することが、悪性化を防ぐ最適な治療法であることを見出しました。一方、大型の腫瘍(手術時体積が50cm3以上)では、多くの症例では小型の腫瘍と同様に手術後速やかに化学療法と放射線を開始することが最適な治療法である一方で、手術摘出が不十分、特定の遺伝子変異パターンを示す場合には、術後治療がむしろ悪性化を早めてしまうことがわかりました。さらに、早期診断早期治療がこの腫瘍の悪性化を防ぐ上で極めて重要であることを示すことができました。本研究成果は、低悪性度IDH変異神経膠腫の悪性化を防ぎ、結果として生存率を向上させるために、"それぞれの患者さんにとって"最適な治療戦略を明らかにした、とても重要な知見と考えます。
本研究成果は、2021年7月31日付け米国癌学会誌「Cancer Research」のオンライン版に公開されます。なお、本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業「若手研究」、「基盤研究 B」、「新学術領域研究」、日本脳神経財団、がん研究開発費、株式会社SRL及びH.U.グループによる社会連携講座共同研究費の支援を受けて実施されました。
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https://release.nikkei.co.jp/attach/615489/01_202107291048.jpg
添付リリース
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