東大と千葉大、コメで作った飲むワクチン「ムコライス」のヒトでの安全性と免疫原性を確認
発表日:2021年06月26日

コメで作った飲むワクチン「ムコライス」の実現に向けて大きな一歩
-ヒトでの安全性と免疫原性が確認されました-
1.発表者:
清野 宏(東京大学医科学研究所 東京大学特任教授部門 粘膜免疫学部門 特任教授/千葉大学大学院医学研究院 特任教授)
2.発表のポイント:
◆下痢症の原因となるコレラ毒素(CT、(注1))のB サブユニット(CTB、(注1))をワクチン抗原としてイネに発現させたコメ型経口ワクチン「ムコライス」( MucoRice-CTB )のヒトでの有効性(免疫原性)、安全性、忍容性が確認されました。
◆実験動物レベルで実証されていた有効性(免疫原性)と安全性がヒトでも確認されたことで、ワクチンに対する免疫応答は、被験者の腸内細菌叢と深い関わりがあることが明らかになりました。
◆「ムコライス」(MucoRice-CTB)はCTによる下痢症だけではなく、旅行者下痢症の原因の一つである毒素原性大腸菌由来易熱性毒素(LT、(注2))による下痢症にも効果がある可能性が示され、注射器・針と冷蔵保存不要の世界的規模の安価なワクチンを供給できる可能性があります。
3.発表概要:
東京大学医科学研究所 東京大学特任教授部門 粘膜免疫学部門/千葉大学国際粘膜免疫・アレルギー治療学拠点の清野宏特任教授、東京大学医科学研究所 附属国際粘膜ワクチン開発研究センターの幸義和特任研究員、附属病院アレルギー免疫科の田中廣壽教授、先端医療開発推進分野の長村文孝教授、健康医療インテリジェンス分野の井元清哉教授、および大阪市立大学大学院医学研究科 ゲノム免疫学の植松智教授(東京大学医科学研究所 附属国際粘膜ワクチン研究開発センター 自然免疫制御分野 特任教授 兼務)らのグループは、コレラ毒素(CT)のB サブユニット(CTB)をワクチン抗原として、イネ種子に発現させたコメ型経口ワクチン「ムコライス」(MucoRice-CTB、IMSUT-MR1501)の健康成人を対象とした医師主導第I相試験において有効性(免疫原性)と安全性、忍容性を確認しました(図1)。
※図1は添付の関連資料を参照
コレラ菌感染による下痢症は発展途上国では未だに大きな問題であり、年間約130-400万人の感染者とそれに起因する2-14万人の死者が出ています。また、毒素原性大腸菌感染による下痢症は、年間約260万人の患者数が報告されています。
「ムコライス」(MucoRice-CTB)の下痢症予防ワクチンとしての有効性は、実験動物レベルでは確認されていましたが、ヒトに投与したときの有効性(免疫原性)と安全性を今回、新たに確認することができました(図1、図2、図3)。また、ワクチンに対する免疫応答は被験者の腸内細菌叢と深い関わりがあることが明らかになりました(図1、図4)。「ムコライス」(MucoRice-CTB)はコレラ毒素(CT)による下痢症だけではなく、毒素原性大腸菌由来易熱性毒素(LT)による下痢症にも効果のある可能性が示されました。
これらの成果は、発展途上国におけるCTによる下痢症のみならずLTや志賀毒素(注3)が原因の旅行者下痢症の予防に役立つと考えられます。「ムコライス」(MucoRice-CTB)は常温保存が可能であり、コールドチェーン(低温物流)不要の世界的規模の安価なワクチンを供給できる可能性があります。
本研究成果は2020年6月25日(英国夏時間)、英国科学雑誌「The Lancet Microbe」オンライン版で公開されます。
本研究成果は、文部科学省(MEXT) / 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究加速ネットワークプログラムにより2014年度、2015年度の支援を受け、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS 15jm0110012h0101, 17jm0110012h0003, 18jm0110012h0004, 19jm0110012h0005, 20jm0110012h0006)の一環として得られました。
また、日本学術振興会(JSPS)、科学研究費助成事業(B16K16144,18K18148)の支援も受けました。
※以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
図1
https://release.nikkei.co.jp/attach/613311/01_202106251456.jpg
添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/613311/02_202106251456.pdf