東大、遺伝子の転写後にmRNA前駆体が切断・連結されるスプライシングにおいて重要な役割を演じていることを解明
発表日:2021年05月28日
RNAのたった一か所のメチル化修飾がタンパク質におけるアミノ酸配列の多様性を生み出す
―RNAスプライシング機構におけるm6A修飾の役割を解明―
1.発表者:
石神 宥真(研究当時:東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 特任研究員/現:Postdoctoral Fellow, Cold Spring Harbor Laboratory)
大平 高之(東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 助教)
磯川 由衣(研究当時:東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 修士課程2年)
鈴木 穣(東京大学 大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 教授)
鈴木 勉(東京大学 大学院工学系研究科化学生命工学専攻 教授)
2.発表のポイント:
◆ 様々な生命現象にかかわるN6メチルアデノシン(m6A)修飾(注1)が、遺伝子の転写後にmRNA前駆体が切断・連結されるスプライシング(注2)において、重要な役割を演じていることを世界で初めて解明した。
◆ スプライソソーム(注3)とmRNA前駆体の相互作用において、U6 snRNA(注4)のm6A修飾が特定の塩基配列を持つイントロン(注5)との結合を安定化することで、スプライシングの効率を上げる仕組みを見いだした。この機構はU5 snRNAとエキソン(注6)間の相互作用が弱い時に、特に重要であることが判明した。
◆ ゲノム中に多数のイントロンを有する真核生物では、U6 snRNAのm6A修飾が5'スプライス部位におけるエキソン配列に自由度を与えることで、タンパク質のアミノ酸配列の多様性を許容する役割があると考えられる。
3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の石神宥真特任研究員(研究当時)と鈴木勉教授を中心とする研究グループは、U6 snRNA上のm6A修飾を欠損した分裂酵母株のトランスクリプトーム解析(注7)および遺伝学と生化学を駆使した解析により、mRNA前駆体のスプライシング反応におけるm6A修飾の役割を解明した。m6A修飾の欠損により、大きく影響を受けるイントロンの5'スプライス部位の配列の特徴から、m6A修飾はA-Aの塩基対合を強めることにより、U6 snRNAとイントロンの相互作用を安定化する役割があることが判明した。また、この相互作用は、U5 snRNAとエキソンとの相互作用が弱い時に、特に重要であることも判明した。この結果から、多数のイントロンを有する真核生物では、5'スプライス部位において、m6A修飾がU6 snRNAとイントロンの相互作用を安定化することで、U5 snRNAが認識するエキソン配列に自由度を与え、タンパク質のアミノ酸配列の多様性を許容する役割があると考えられる。
本研究は、その発見から40年以上謎に包まれていたU6 snRNA上のm6A修飾の役割を解明しただけでなく、スプライソソームの重要な構成因子であるU5 snRNAとU6 snRNAが協調的にmRNA前駆体を認識することの機能的な重要性を明らかにした。また多数のイントロンを獲得し、mRNAスプライシングを変化させることで複雑な生命現象を実現した高等真核生物の進化において、RNA修飾の役割を初めて明らかにした研究成果である。将来的には、RNA修飾とmRNAスプライシングの関係をより深く理解することで、遺伝子発現調節機構の探究や、ヒトの疾患の発症機構の解明につながることが期待される。本研究成果は5月28日(金)に科学誌「Nature Communications」に掲載される予定である。
※以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/611247/01_202105281443.pdf
関連リンク