東大、光波を測る量子暗号のセキュリティ問題を解決
発表日:2021年01月13日
光波を測る量子暗号のセキュリティ問題を解決
―量子暗号装置の低コスト化へ前進―
1.発表者
松浦 孝弥(東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻 博士課程 2年)
前田 健人(東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻 修士課程 2年[研究当時])
佐々木 寿彦(東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻 講師)
小芦 雅斗(東京大学 大学院工学系研究科附属光量子科学研究センター 教授)
2.発表のポイント
◆通常、量子暗号では光の粒(光子)の検出を行うが、替わりに光の波の振幅を測る方法も模索されてきた。しかし、セキュリティを保証する理論が未完成という大きな壁があった。
◆光子を検出すれば得られるはずの盗聴の痕跡を、振幅というアナログな測定結果だけから厳密に推定する新手法を発案し、セキュリティの問題を解決した。
◆光子検出装置に比べ、振幅測定装置は低コストでコンパクトに実現できる。波長多重などの既存の光通信技術との親和性も高く、量子暗号技術の普及の促進が期待される。
3.発表概要:
量子暗号(注1)は、量子力学の性質を利用して、盗聴者の計算能力や技術レベルに依存しない強固なセキュリティを持った通信を可能にする技術です。多くの量子暗号方式では、非常に小さなエネルギーを持つ光子(注2)1個の到来を検知できる光子検出器が使われますが、光の波の振幅を測る別の方式も提案されていました。この光波を測る量子暗号方式は、光子検出器の替わりに、もっと安価な、強い光のエネルギーを測る光検出器で実現できるという利点があります。しかし、光子の検出を行う方法に比べると、セキュリティを保証する理論の進展が遅く、盗聴者がどんな技術を使っても盗聴できないという量子暗号の最大の特長を証明するには、非現実的な装置の仮定が必要でした。
本研究グループは、光波を測る量子暗号方式のセキュリティの問題を解決し、非現実的な仮定を置くことなく、保証されたセキュリティのもとで通信を行う具体的な方法を初めて見出しました。波の振幅というアナログ量から盗聴の痕跡を突き止める新しい手法の考案が解決の鍵でした。この成果により、量子暗号装置の低コスト化、コンパクト化や、光波長多重通信(注3)による大容量化の道が拓けることになり、強固なセキュリティを持つ量子暗号技術の普及に大きく弾みがつくと期待されます。
本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用したSociety5.0 実現化技術」(管理法人:量研)ならびに科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援のもとに行われました。
※以下は添付リリースを参照
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添付リリース
https://release.nikkei.co.jp/attach/602973/01_202101121529.pdf
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