東大、水処理膜に新たな「分子ふるい」の機能を発見
発表日:2020年10月20日
水処理膜に新たな「分子ふるい」の機能を発見:イオンを取り巻く水の水素結合構造を認識して選択的な透過
1.発表者:
渡辺 隆甫(東京大学大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 修士課程2年(当時))
山添 康介(東京大学物性研究所 特任研究員)
宮脇 淳(東京大学物性研究所 助教/大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 助教(当時))
坂本 健(東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 助教)
加藤 隆史(東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 教授)
原田 慈久(東京大学物性研究所 教授/大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授)
2.発表のポイント:
◆液晶高分子(注1)を用いた水処理膜が、イオンを取り巻く水の水素結合構造(注2)を認識して特定のイオンを透過させることを明らかにしました。
◆水を材料の一部とみなすことにより、水と接する材料の機能がうまく説明できることを示しました。
◆水処理膜のみならず、生体親和性や接着など、水を介する機能材料の設計・材料研究への展開が期待されます。
3.発表概要:
東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程2年の渡辺隆甫大学院生(研究当時)、同大学物性研究所の山添康介特任研究員、宮脇淳助教(研究当時)、原田慈久教授、同大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の坂本健助教、加藤隆史教授は、液晶高分子を用いた水処理膜が、イオンを取り囲む水の水素結合構造を認識してイオンを選択的に透過する可能性を示しました。
水を利用価値のある形に転換して安全・安心な水を確保するために、これまでにさまざまな水処理膜が開発されてきました。水処理膜は多くの微細な穴を持っており、そのサイズと、水に溶けたイオンや不純物のサイズを比較して、穴より小さいものが透過するという「分子ふるい」の原理で理解されています。しかし実際には、イオンや不純物は水和水と呼ばれる水の殻を被っており、その殻も考慮した実効的な大きさで分子ふるいを考える必要があります。また、イオンは電荷を持っているため、穴の中にプラスやマイナスの電気を帯びた部分があれば、電気的な相互作用が透過するイオンの選択性に大きく影響します。
本研究では、加藤教授らが開発した、極めて均一かつ1ナノメートル(10億分の1メートル)以下でサイズの揃った穴を持つ液晶高分子の自己組織化膜を用いると、実効的なサイズと電荷の大きい硫酸マグネシウムが、実効的なサイズと電荷の小さい塩化ナトリウムよりも多く透過するという現象に着目しました。これは従来の原理(分子ふるいや電気的な相互作用)だけでは説明できず、イオンを取り巻く水も透過機能に関わる可能性を示唆しています。そこで、わずかな水の構造変化も捉えることのできる大型放射光施設 SPring-8(注3)(ビームライン BL07LSU)を用いて液晶高分子膜中の水を調べた結果、イオンを取り巻く水の水素結合構造が穴の中で安定に存在するかどうかが、イオンの選択的な透過機能に影響を及ぼすことを見出しました。
本研究成果は水を材料の一部とみなすことにより、水と接する材料の機能がうまく説明できることを示したもので、今後水処理膜や生体膜のイオン選択透過機能にとどまらず、生体親和性や接着など、水と材料の界面で発現する様々な機能に対する水の役割を可視化する第一歩となることが期待されます。
本研究成果は、2020年10月20日付でドイツ化学会の国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版で公開される予定です。
※以下は添付リリースを参照
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