NTT、脳の「伸張反射」が視覚による身体情報に依存して調整されることを発見
発表日:2020年6月1日

伸張反射の調整に、視覚による身体情報が関与していることを世界で初めて発見
~巧みで素早い運動は、脳の中の身体表現が支えている~
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田純、以下 NTT)は、運動を支える脳の仕組みの一つである「伸張反射」(※1)が、視覚による身体情報に依存して調整されることを発見しました。
伸張反射には姿勢を安定化するための役割があることが知られていますが、運動中の伸張反射を適切に調整するための脳内情報処理は十分明らかになっていません。本研究では、運動中の伸張反射応答を調べる実験を行い、身体状態を表す視覚情報に操作を加えることで反射応答が小さくなることを発見しました。この結果は、反射応答の調整計算が体性感覚情報だけでなく、視覚情報も統合した身体表象に基づき行われていることを示唆します。
本研究の成果は、反射系の調整が従来考えられてきたより複雑な脳内情報処理を経て行われている可能性を示しています。今回得られた知見は、人間が素早く正確な身体運動を行うための無意識の脳の仕組みについて、理解を深めていく上で重要な手がかりとなります。
■背景
人間の身体動作は意識に上らない様々な脳の仕組みによって支えられています。そのひとつ「伸張反射」は、意図しない姿勢の変化を素早く修正することで、人間の正確な運動実行に重要な役割を果たすと考えられています(図1)。伸張反射の応答は、画一的に生成されるわけではなく、運動中に刻一刻変化する身体状態に合わせ調整されることが様々な研究で明らかになってきました。一方で、その調整計算のために脳内でどのような情報処理が行われているかについては、詳細にはわかっていません。一例として、伸張反射の調整が体性感覚情報(※2)のみに基づくのか、あるいは視覚情報も統合した身体表象を利用して行われているのかについてはこれまで未解明でした。
*図1は添付の関連資料を参照
■研究の成果
NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、伸張反射が視覚による身体情報に依存して調整されることを明らかにしました。実験により、視覚目標への到達運動中の伸張反射が1).身体運動の視覚フィードバックと実際の運動の不一致、2).身体運動の視覚フィードバックの消去、という条件下で通常時より小さくなることを示しました。これらの結果から、伸張反射の調整には体性感覚情報だけでなく、「視覚情報も統合した身体表象」が利用されていると考えられます。さらに、視覚情報の提示時間に応じて変化する反射応答と運動到達位置のばらつきが逆相関することを見出しました。このことから、運動中の身体状態推定がどのくらい不確かかということによって伸張反射の調整が行われている、ということが示唆されます。これらの発見は、反射応答の調整計算が、従来考えられていたより複雑な脳内情報処理を経て行われていることを示唆しています。
*以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
図1
https://release.nikkei.co.jp/attach_file/0535033_01.jpg
添付リリース
関連リンク