東大と富山大、シナプスの形成を誘導するPTPδがLiprin-αを介してシナプス形成を誘導する仕組みを解明
発表日:2020年1月31日
神経細胞間の信号伝達を担う接着構造を形成する仕組みの解明
1.発表者:
深井 周也(東京大学定量生命科学研究所 准教授)
吉田 知之(富山大学学術研究部医学系 准教授)
2.発表のポイント:
◆神経細胞間の信号伝達を担う接着構造であるシナプスの形成を誘導する膜受容体チロシン脱リン酸化酵素 PTPδ(デルタ)が、細胞内のシナプスタンパク質 Liprin-αを介してシナプス形成を誘導する仕組みを明らかにしました。
◆PTPδとLiprin-αが結合した状態の立体構造を決定し、相互作用する様子の詳細を明らかにしました。
◆本成果は、神経回路形成のメカニズムの解明や自閉症などの神経発達障害に関わる今後の研究に役立つ知見になると期待されます。
3.発表概要:
東京大学定量生命科学研究所(白髭克彦所長)の深井周也准教授らのグループは、神経細胞間の信号伝達を担う接着構造であるシナプス(注1、図1)の形成を誘導する膜受容体チロシン脱リン酸化酵素 PTPδ(注2)と細胞内のアダプタータンパク質 Liprin-α(注3)が結合した状態の立体構造を決定し、シナプス形成を誘導する仕組みの一端を明らかにしました。シナプスの形成と再編は、脳発達期の神経回路の形成や記憶学習の際に起きる重要なステップであり、その調節機構の破綻は自閉症などの神経発達障害の発症と密接に関連することが示唆されています。神経発達障害の発症に関連する細胞接着分子であるPTPδは軸索終末に発現し、樹状突起に発現する別の細胞接着分子と相互作用することでシナプス形成を誘導します。深井准教授らの研究グループは、PTPδとLiprin-αが結合した状態の立体構造(図2)をX線結晶構造解析(注4)の手法で決定することによって、これらの分子が選択的に相互作用するメカニズムの詳細を明らかにしました。さらに、PTPδとLiprin-αの相互作用が失われることで、シナプス形成が大幅に減少することを見出しました。本成果は、神経回路形成のメカニズムの解明や自閉症などの神経発達障害の発症機構に関わる、今後の研究に役立つ知見になると期待されます。
4.発表内容:
【研究の背景】
神経細胞間の接続部であるシナプス(図1)の形成と再編は、脳の発達に伴い神経回路が作られる際や記憶学習の際に起こる重要なステップであり、その調節機構の破綻は自閉症、知的障害などの神経発達障害の発症と深く関わることが示唆されています。神経細胞はシナプスを介して神経伝達物質を受け渡すことにより情報伝達を行いますが、出力側をシナプス前終末、入力側をシナプス後終末と呼び、シナプス前終末と後終末の両方もしくは片方の分化誘導に寄与する細胞接着分子をシナプスオーガナイザーと呼びます。IIa型受容体タンパク質チロシン脱リン酸化酵素(IIa RPTP)は、軸索に存在する主要なシナプスオーガナイザーで、樹状突起に存在する別のシナプスオーガナイザーと結合することによってシナプス前終末を分化誘導する細胞内シグナルを惹起します。これまでに、細胞内でアダプタータンパク質であるLiprin-αと結合して、シナプス前終末の分化を誘導することが示唆されていましたが、その分子機構の詳細はよくわかっていませんでした。
※以下は添付リリースを参照
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