阪大、関節炎で骨を破壊する"悪玉破骨細胞"を発見
発表日:2019年11月19日

犯人は別に。関節炎で骨を破壊する"悪玉破骨細胞"を発見
【研究成果のポイント】
◆炎症関節の細胞を採取・解析する技術を独自に開発し、関節炎で病的に骨を破壊する"悪玉破骨細胞"を同定した。
◆"悪玉破骨細胞"は、通常の骨代謝を担う"善玉破骨細胞"とは、性質も起源も異なることが分かった。
◆"悪玉破骨細胞"のみを特異的に阻害することで、善玉の破骨細胞が担う正常な骨の新陳代謝には影響を与えずに、関節リウマチ患者の病的な骨破壊のみ完全に阻止する画期的な治療薬開発が期待される。
■概要
大阪大学 大学院医学系研究科の長谷川哲雄 特任研究員、石井優 教授(免疫細胞生物学)らの研究グループは、破骨細胞には正常な破骨細胞とは性質も起源も異なる"悪玉破骨細胞"が存在することを世界で初めて明らかにしました。
破骨細胞は、古く傷んだ骨を壊し、その後骨芽細胞による骨新生を促すことで骨の健康さ(新陳代謝)を維持するという「良い働き」をします。その一方で、関節リウマチやがんの骨転移といった病気では、この破骨細胞が異常に活性化することで骨の破壊を起こすという「悪い働き」をしてしまうことが知られています。これまでの通説では、この破骨細胞は一種類であり、働き方が異なることで、「良い働き」や「悪い働き」を行うと考えられてきましたが、今回、石井優 教授らの研究グループは、これらの細胞は元々異なるものであり、病的な骨破壊を行う"悪玉破骨細胞"が存在することを同定しました(図1)。
関節炎を発症させたマウスの関節組織から細胞を回収し解析する独自の方法を確立させることで、炎症関節組織には、病的に骨を破壊する"悪玉破骨細胞"へと変化する特殊なマクロファージ(悪玉破骨前駆細胞)が存在することを突き詰め、これを"arthritis-associated osteoclastogenic macrophage;AtoM(アトム)"と命名しました。さらに、AtoMができるときに必要な分子を同定し、これを抑制することで、AtoMや、そこから生じる"悪玉破骨細胞"が特異的に阻害され、骨の破壊を強力に抑えることを証明しました。今後、関節リウマチ患者の病的な"悪玉破骨細胞"を標的とした新たな治療薬開発が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Immunology誌」に、11月19日(火)午前1時(日本時間)に公開されます。
※図1は添付の関連資料を参照
■研究の背景
古い骨を溶かす"破骨細胞"は、生理的な状態では骨の内側のみに存在し、骨を造る"骨芽細胞"と協調して骨構造を緻密に維持しています。一方、関節リウマチなどの病的な状態では関節組織に発生し、骨を"外側"から壊すことで関節構造を破壊します。
これまでに"破骨細胞"とその"前駆細胞"の研究は、骨髄や脾臓や血液の細胞を用いて数多く行われてきましたが、実際に病的な骨破壊が起こる"関節組織"を用いた解析は、病変部位が非常に小さいため詳細に行われてきませんでした。そのため、正常な破骨細胞の発生過程と病的な破骨細胞の発生過程が同じなのか、明らかではありませんでした。
※以下は添付リリースを参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
図1
https://release.nikkei.co.jp/attach_file/0523641_01.JPG
添付リリース