東大と群馬大、遺伝情報を正確に守るための新たなDNA修復メカニズムを発見
発表日:2018年9月21日
遺伝情報を正確に守るための新たなDNA修復メカニズムを発見
~ヒトの体が持つ「がんにならないようにする」仕組みの一端が明らかに!~
1.発表者:
安原 崇哲(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター 放射線分子医学部門 助教)
加藤 玲於奈(東京大学大学院医学系研究科 博士課程1年生)
柴田 淳史(群馬大学大学院医学系研究科 附属教育研究支援センター 教育研究部門 研究講師)
宮川 清(東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター 放射線分子医学部門 教授)
2.発表のポイント:
◆我々の遺伝情報が記録されたゲノム(注1)に損傷(注2)が起こった場合に、損傷周辺の遺伝情報の重要性を認識して、重要度の高い部分は正確に修復しようとすることがわかった。
◆重要な遺伝情報を含むゲノム領域にDNA損傷が生じると、その部位が重要であることを示す目印となる特殊な構造が形成され、その目印を遺伝子Rad52(注3)が認識することで、正確なDNA修復経路へと誘導することがわかった。
◆遺伝情報の重要な部分に異常が生じると、がんなどの疾患の原因となるため、今回発見したメカニズムは、疾患の発生を抑制するために細胞が持つ防御機構の一つであることが示唆される。
3.発表概要:
私たちの体の中にあるほとんどの細胞は、それぞれ一つずつ細胞核を持っていて、その細胞核の中にはDNAが折りたたまれて入っています。一つの細胞核に入っている全てのDNAを繋ぎ合わせると、全長2メートルになると言われていますが、実はそのうちのほんの一部分しか「遺伝子」(注1)として利用されていません。タンパク質を合成するために遺伝情報が頻繁に読み出される領域は細胞にとって非常に重要であるため、もしその領域でDNAが切断された場合には、他の部位に比べ正確に修復することが必要と考えられてきました。しかしながら、重要な遺伝情報が記録された領域のDNAが切断された時、細胞がどのようにして広大なゲノムから重要な部分を探し出しているのか、さらにはどのようにして正確に修復しようとするのかについては、ほとんど分かっていませんでした。
今回、東京大学大学院医学系研究科の安原崇哲助教、加藤玲於奈大学院生、宮川清教授、群馬大学大学院医学系研究科の柴田淳史研究講師らの研究グループは、重要な遺伝情報を含む領域にゲノム損傷が生じると、周辺にR-loop構造と呼ばれる、DNAとRNAからなる特殊な構造(図1)が形成されること、さらにタンパク質Rad52がこの構造を認識することが、その部位のゲノム損傷を正確に修復するきっかけとなることを発見しました(図2)。広大なゲノムの中で、その領域の重要性を認識し、正確な修復経路を誘導するために、R-loop構造はいわば、目印として利用されていることが判明しました。さらに、このメカニズムがうまく機能しない場合には、不正確なDNA修復によって生じるゲノム異常が顕著に増加することも分かりました。今回明らかになったメカニズムは、ゲノム異常を原因として生じるがんなどの疾患を防ぐために細胞が保持している防御機構の一つであることが示唆されます。
本研究成果は、米国科学雑誌『Cell』の2018年10月4日号(2018年9月20日オンライン版(米国東部夏時間))に掲載されます。
※以下は添付リリースを参照
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添付リリース