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東大、J-ADNI研究によりアルツハイマー病早期段階(軽度認知障害)の進行過程を解明

2018/5/9 13:05
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発表日:2018年5月9日

J-ADNI研究によりアルツハイマー病早期段階(軽度認知障害)の進行過程を解明

1.発表者:

岩坪 威(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻教授、東京大学医学部附属病院早期・探索開発推進室長)

2.発表のポイント:

◆アルツハイマー病の早期段階にあたる軽度認知障害(MCI)の進行過程を追跡したJ-ADNI研究の結果から、MCIの進行過程は日米で極めて似ていることを明らかにしました。

◆本邦には、これまでMCIなどのアルツハイマー病早期段階に関する大規模な臨床研究データは存在しませんでした。今回日本人におけるMCIが認知症に進展してゆく過程が初めて明らかになりました。

◆アルツハイマー病の進行や薬剤効果を早期段階から精密に評価することにより、日本でのアルツハイマー病治療薬の開発を、世界と同時進行で加速することが可能となりました。

3.発表概要:

高齢化とともに本邦で急増しているアルツハイマー病(AD)の根本治療薬開発は急務です。今後の予防・治療の対象として重要な軽度認知障害(MCI、(注1))などの早期段階を、画像診断やバイオマーカーを用いて精密に評価するAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI、(注2))研究が米国で進み、本邦でもJ-ADNI研究(注3)が推進されてきました。J-ADNI研究の主任研究者を務める東京大学大学院医学系研究科の岩坪威教授らのチームは、今回J-ADNIの全結果を詳細に解析し、アミロイドPET画像法(注4)などの最新技術によって診断された、ADを原因とするMCIについて、その症状や進行速度などの特徴が米国ADNIのMCIに極めて類似していることを明らかにしました。J-ADNI研究では全国で総数537例、うちMCI 234例が3年間にわたり追跡され、今回米国ADNIチームと共同でデータの比較解析が行われました。MCIからADへの進行過程の自然経過に日本人と欧米人で高い共通性が示され、AD根本治療薬の治験においても、認知症期よりもまだ進行のスピードが遅いMCIなどの早期段階で、治療薬の効果を精密に評価できる技術が確立しました。これにより本邦のADの予防・治療薬開発が加速されるものと期待されます。

4.発表内容:

アルツハイマー病(AD)の発症メカニズムが解明されるにつれて、病因となるアミロイドβの抑制薬などの、根本的な病気の発症メカニズムに作用する治療薬(疾患修飾薬)の開発が世界レベルで開始されています。しかし現状では、認知症の症状が臨床的に顕在化した時期(AD認知症)での治験では十分な効果が示されず、より早期段階での治療が望まれています。記憶障害などの認知機能障害が出現しているが未だ独立した生活が可能であり、認知症レベルに至っていない早期の段階は、軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)と呼ばれ、近年認知症に先行する病期として注目されています。しかしMCI期は症状の程度も軽く、増悪の速度も緩やかなため、治療薬の治験を行うにあたって、進行スピードを正確に評価するなどの薬効の評価が困難と予想されます。この問題を解決するために、MRIやPETスキャンなどの画像診断法、脳脊髄液などの体液のバイオマーカー測定などを併用し、ADの病理学的変化を正確に診断した上で、その進行過程を正確に評価することを目的として、2003年米国でAlzheimer's Disease Neuroimaging Initiative (ADNI; アルツハイマー病の画像診断を用いた先導的研究)が開始されました。ADNIの成果から、MCIなどの早期段階におけるADの診断と精密な進行評価が可能となり、MCI期のADの疾患修飾薬治験の開始も可能となりつつあります。しかし本邦ではADの臨床研究が立ち後れ、ADによるMCIの精密診断の技術や基礎データの蓄積も遅れをとっており、特にMCIなどの早期段階の進行過程が欧米人と同じかどうかも明らかになっていませんでした。

この状況を打開するために、2008年より東京大学・岩坪威教授を主任研究者として、全国38の代表的な医療研究機関と、脳画像診断、バイオマーカーの専門家が結集して、日本のADNI研究(J-ADNI研究)が開始され、全国でMCI 234例、軽症AD認知症 149例、健常高齢者 154例、全537例の24-36ヶ月間にわたる自然な進行経過(natural history)の精密な追跡評価が行われました。今回岩坪教授らはJ-ADNIで得られた全データをとりまとめ、データベースとして公開するとともに、ADを原因とするMCI (MCI due to AD)を中心に、その進行経過を米国ADNIと詳細に比較しました。ADによるMCIの診断は、アミロイドPETまたは脳脊髄液中Aβ(1-42)の測定により、米国と同等に行うことが可能となりました(図1)。アミロイド陽性のADによるMCIはMCI全体の約2/3を占めていました。この群で、記憶などの認知機能や生活機能を評価する代表的な4種類のテストとしてミニメンタル試験(MMSE)、ADAS-Cog13指標、臨床認知症スケール(CDR)、機能評価質問票(FAQ)を3年間にわたって反復試行し、その進行経過を米国ADNIのアミロイド陽性MCIと比較したところ、日米の検査結果は、4種類のテストを通じて極めてよく一致していました(図2)。また認知症レベルに達している軽症AD群を比較すると、J-ADNIでは米国ADNIよりもやや成績が良く、進行のスピードもやや緩徐な傾向が見られました。この差は、J-ADNIでは認知症レベルに達して間もない、より軽症の症例が多く含まれたことによる可能性も考えられました。健常者でもJ-ADNIでは23%にアミロイド陽性者が検出され、この群はADの病理変化が生じ始めている未発症期の「プレクリニカルAD」に相当するものと考えられました。

今回の結果から、AD発症の早期段階に相当するMCI期の症状の進行過程には、人種を越えて高い共通性があることが初めて実証されました。ADの疾患修飾薬の実用化には、世界の多くの国において、多数の被験者を同じ方法で評価する「グローバル治験」の実施が不可欠ですが、本邦のADによるMCIが欧米など他の民族のMCIと同じ性質を示すのか、また本邦でも同じ評価方法が適用できるのかは未解決でした。J-ADNI研究を通じて、米国ADNIの結果に基づいて世界標準となっているアミロイドPETやバイオマーカー検査法、認知機能評価法が本邦でも整備され、MCI段階のADの症状やその微細な変化を精密に評価することが可能となりました。そして日米のADNIが厳密に同じ方法を用いて、MCIをはじめとするADの早期段階を両国間で比較したことにより、民族を超えた共通性と民族ごとの特徴が実証されるとともに、J-ADNIとADNI研究のデータの妥当性や意義を、更に詳細に検証することが可能となりました。

今後アミロイドβやタウなど、ADの病因因子を標的とする疾患修飾療法の開発がさらに進み、MCIやさらに早期の段階を対象とする疾患修飾薬の大規模治験がますます盛んになることは必至です。この状況下で、J-ADNIデータベースとJ-ADNIによって樹立された技術・ネットワークの活用を進め、官・民・アカデミアのパートナーシップをさらに発展させることにより、ADの治療・予防薬の治験が本邦において加速され、本邦発の画期的新薬を含むAD治療薬の利用がドラッグラグを生じることなく可能となり、国際的にも、さらなる治療薬の研究・開発に貢献できるものと期待されます。

※以下は添付リリースを参照

リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。

添付リリース

http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0478846_01.pdf

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