2018年6月19日(火)

プレスリリース

東大、キラルセルフソーティングの機構を解明

2018/4/19 19:05
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発表日:2018年4月19日

キラルセルフソーティングの機構を解明

 

●発表のポイント

 ◆キラルセルフソーティングと呼ばれる、右手・左手に相当する鏡像体の混合物が自発的に選別され、それぞれで集合化する現象がどのように起こるのかを明らかにしました。

 ◆これまで、キラルセルフソーティングという現象は知られていましたが、そのメカニズムは明らかにされていませんでした。今回独自に開発した手法を用いて、世界で初めてその仕組みを解明しました。

 ◆キラルセルフソーティングの過程の理解が、生命の誕生において鏡像体の片方だけがどのように選別されたかという謎の解明につながることが期待されます。

●発表概要:

 東京大学大学院総合文化研究科の平岡秀一教授らは、鏡像体(注1)の混合物が金属イオンを介して分子自己集合(注2)を行う過程で、同じ鏡像体同士がそれぞれ集合化するキラルセルフソーティングという現象が起こる機構を解明しました。これまで、多くのキラルセルフソーティングが知られていましたが、どのように鏡像体の選別が行われているのかは全く明らかにされていませんでした。これは、分子自己集合の機構を調べることが困難なためです。本研究グループは最近、分子自己集合の過程を調べる手法を独自に開発し、これを鏡像体が構成要素となる分子自己集合に適用し、キラルセルフソーティングの過程を調べました。その結果、一度、二種類の鏡像体が混ざった中間体が統計比よりも多く生成してから、構成要素の交換を行いながら鏡像体の選別を経て、最終的に同じ鏡像体のみから構成される集合体へ至ることが明らかになりました。キラルセルフソーティングの過程の理解が、生命の誕生において鏡像体の片方だけがどのように選別されたかという謎の解明につながることが期待されます。

●発表内容:

 セルフソーティングとは、複数種の構成要素を混合した際に、同じもの同士(ホモ)、もしくは異なるもの同士(ヘテロ)だけで集合化して構造体を形成する現象で、それぞれの構成要素が自と他を認識し、自発的に選別を起こす現象です。分子の中には、鏡に映して作られた分子(鏡像体)が元の分子と重ならない場合があり、このような分子をキラルな分子と呼び、それぞれの鏡像体はR体、S体などと呼ばれます。鏡像体の1:1混合物(ラセミ体)を構成要素として、四つの構成要素が集まり集合体を形成する場合、R体とS体の数の異なる五種類の異性体(RRRR, RRRS, RRSS, RSSS, SSSS)が考えられます。この時、R体同士、S体同士だけが集まってRRRRとSSSSだけができる現象(もしくは、RRRS, RRSS, RSSSだけができる現象)もセルフソーティングですが、このように鏡像体の選別が行われる場合、キラルセルフソーティングと呼びます。

 これまでに、たくさんのキラルセルフソーティングが報告されてきましたが、どのように構成要素が選別されるのかというメカニズムに関する報告は全くありませんでした。これは、キラルセルフソーティングの原動力となる、自己集合の機構すら解明されていなかったためです。自己集合の過程を明らかにするためには、途中に生成する中間体を観測し、それらの時間推移を調べれば良いのですが、ほとんどの自己集合において、多数の中間体が発生することなどが原因で、中間体を観測できないという問題があり、これまで自己集合の機構解明はほとんど進んでいませんでした。

 最近、研究グループは自己集合過程を調べる手法(QASAP: quantitative analysis of self-assembly process)を開発し、これを金属イオンと金属イオンに結合する分子(配位子)から作られる分子自己集合へ適用し、これまでにさまざまな自己集合体の形成機構を明らかにしてきました。QASAPでは、原料と生成物の存在量を調べ、全中間体の中に含まれる各構成要素の割合(平均組成)として、中間体に関する情報を得るため、中間体を全く観測できなくても、自己集合過程を調べることができます。

 今回、研究グループは二つのパラジウムイオン(Pd2+))と四つのキラルな配位子(RとS)が集合して作るかご型の構造体(図1a)の形成におけるキラルセルフソーティングの機構をQASAPにより明らかにしました。同じキラルな配位子が四つ集まった構造が最も安定なため、最終的にSSSSとRRRRが得られます。自己集合の途中では配位子を二つ、三つ、四つ含む中間体が順に生成すると考えられますが、ここで、二つの配位子を含む中間体を生成する段階からホモ構造(SS、RR)が優先するのか、それとも四つの配位子を含む中間体やかご型構造までヘテロ分子が生成し、その後、配位子を交換して、ホモかご構造へ至るのかという疑問があります。すなわち、自己集合のどの段階でキラルセルフソーティングが起こるのかという問題です。

 はじめに研究グループは、Sの配位子だけを使って、かご型構造を形成する過程をQASAPにより調べました。その結果、自己集合は主に三段階で進むことがわかりました(図1b)。はじめに二つの配位子を含む中間体を生成したのち(段階1)、これらが反応して、四つの配位子を含む中間体が生成し(段階2)、この中間体がかご型構造へ変換する(段階3)ことが明らかになりました。

 つづいて、キラルセルフソーティングの機構を調べるために、二つの解析を行いました。はじめに、かご型構造の異性体の存在比(ホモ(RRRRとSSSS)とヘテロ(RRRS, RRSS, RSSS)の比)の時間変化を調べました。その結果、自己集合の初期段階から、ホモのかご型構造が優先して生成することがわかりました。つづいて、Rの一部の水素を重水素に置き換え、RとSの分子量を変えることで、質量分析によりRとSを区別できるようにしました。質量分析により自己集合を追跡すると、二つの配位子からなる中間体RR, RS, SSが統計的に生成し、キラルセルフソーティングがこの段階では起こらないことがわかりました。つづいて、これらが反応して得られる四つの配位子からなる中間体では、ヘテロ(RRRS, RRSS, RSSS)が優先することが明らかになりました(図1c)。しかし、存在量の少ないホモ中間体が優先してホモかご型構造へ変換するため、ホモかご型構造が優先して生成することがわかりました。ヘテロ中間体の一部はそのままヘテロかご型構造へ変換しますが、一部は中間体において配位子を交換し、ホモ中間体へ変換してからホモかご型構造になりました。また、ヘテロかご型構造も配位子の交換を経てホモかご型構造へ変換しました。したがって、かご型構造のセルフソーティングは複雑で、四つの配位子からなる中間体になる段階でヘテロセルフソーティングが起こり(本来進むべき方向に対して逆)、その後、四つの配位子からなるヘテロ中間体とヘテロかご型構造において、ホモセルフソーティングが起こることが明らかになりました(図1c)。

 生命分子は鏡像体の片方だけが選択され、特異な機能を示します。鏡像体の性質は旋光性などの光学的な性質を除き等しいことから、生命の起源において、どのように片方の鏡像体だけが選ばれたのかという疑問があります。これに、キラルセルフソーティングが部分的に関わっている可能性もあり、キラルセルフソーティングの機構解明がさらに進むことで、生命の起源における片方の鏡像体の選択に関する謎が解き明かされることが期待されます。

 ※以下は添付リリースを参照

 

 

リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。

添付リリース

http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0477345_01.pdf

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