東工大と早大、ウエハー級品質の太陽電池用シリコン薄膜の作製に成功
発表日:2018年3月9日
ウエハー級品質の太陽電池用シリコン薄膜の作製に成功
―10倍以上の成長速度で、製造コストの大幅低減に期待―
【要点】
○従来の10倍以上の成長速度で太陽電池用高品質Si単結晶薄膜の形成に成功
○ナノ表面粗さ制御技術により、結晶欠陥密度をシリコンウエハーレベルに低減
○単結晶Si太陽電池の発電効率を維持し、コストを大幅低減可能な技術を開発
【概要】
東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の伊原学教授、長谷川馨助教らは早稲田大学理工学術院の野田優教授と共同で、結晶欠陥密度をシリコン(Si)ウエハーレベルまで低減した高品質単結晶Si薄膜を、これまでの10倍以上の成長速度で作製することに成功した。原理的に原料収率を100%近くに向上できるため、単結晶Si太陽電池の発電効率を維持したまま、製造コストを大幅に低減することが期待できる。
伊原教授らは単結晶ウエハーの表面に電気化学的手法で2層のナノオーダーのポーラスシリコン(用語1)を作製。独自のゾーンヒーティング再結晶化法(ZHR法、用語2)で表面荒さ0.2-0.3nm(ナノメートル)まで平滑化した基板を使って高速成長させ、高品質の薄膜単結晶を得た。成長膜は2層のポーラスSi層を使って容易に剥離できる。ZHR法の条件を変えて下地基板の表面粗さを低減すると、結晶薄膜の欠陥密度が徐々に減少し、最終的に約10分の1のSiウエハーレベルまで低減できた。わずか0.1-0.2nm(原子数~数十層レベル)の表面荒さが結晶欠陥の形成に重要な影響を与えることを示したもので、結晶成長メカニズムとしても興味深い。
研究成果は英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)ジャーナル「CrystEngComm」に2月15日に掲載されるとともに、同誌の表紙になることが決定した。
●研究成果
伊原教授らの開発した単結晶Si薄膜作製技術は原料収率を100%近くまで向上できる。このため、現在、太陽電池の多数を占める単結晶シリコン太陽電池並みの発電効率を維持したまま、高速成長による製造装置コストおよび薄膜化・高原料収率による原料コストを大幅に低減できる技術として期待できる。
具体的には(1)単結晶Siウエハー表面に2層のポーラスシリコンを作製(2)表面をZHR法で平滑化(3)その基板を使って高速成長させてSi単結晶薄膜を形成(4)ポーラスSi層を使って剥離―という手順だ。下地のSi基板は再利用もしくは薄膜成長用の蒸発源として利用でき、原料損失を大幅に低減できる。
●背景
単結晶Si太陽電池は薄型化することにより、現状モジュールの約40%を占めている原料コストを大幅に低減できる。またフレキシブル化、軽量化による用途の拡大、設置コストの低減も期待できる。また、近年、化学的気相法(CVD)を用いたエピタキシー(用語3)、電気化学的エッチング(用語4)による2層の多孔度の異なるナノ構造を有するポーラスシリコン(Double Porous Silicon layer:DPSL)を用いたリフトオフ(剥離)による単結晶Si薄膜太陽電池は将来、競争力を持つとして注目されている。
リフトオフによる単結晶Si太陽電池の技術的課題は、(1)Siウエハーレベルの高品質なSi薄膜を形成すること(2)容易にリフトオフ可能なポーラス構造を持っていること(3)成長速度とSi原料収率を大幅に向上させること(成長速度によって必要な装置コストが決定)(4)リフトオフ後の基板を無駄なく利用できること―などであった。特に(1)のウエハーレベルの品質の実現のためには、ポーラスシリコン上に成長する結晶薄膜の品質を支配する主要因を明らかにして、制御する技術を開発する必要があった。
※以下は添付リリースを参照
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添付リリース