東大など、物理的圧力と化学的圧力の組み合わせにより新しい鉄系高温超伝導を発見
発表日:2017年10月26日
物理的圧力と化学的圧力の組み合わせにより、新しい鉄系高温超伝導を発見
1.発表者:
松浦 康平(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 博士課程1年)
水上 雄太(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 助教)
芝内 孝禎(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授)
上床 美也(東京大学物性研究所 物質設計評価施設 教授)
綿貫 徹(量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学研究部門 次長)
福田 竜生(日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 研究副主幹)
2.発表のポイント:
◆鉄系超伝導体の多くでは、圧力を物理的に加えた場合と化学置換による化学的圧力を加えた場合でほぼ同様の変化を示すが、セレン化鉄においては例外的に両者の効果が大きく異なることが知られていた。
◆今回、セレン化鉄において物理的圧力と化学的圧力を組み合わせ電子状態がどのように変化するかを詳細に調べた結果、両圧力を適度に加えた領域に比較的高い転移温度を持つ新しい超伝導相が出現することを発見した。
◆この新しい高温超伝導は、この物質が示す電子液晶相から離れた領域の磁性相近傍に現れることから、磁性相がその発現のメカニズムに関わることを突き止めた。
3.発表概要:
東京大学大学院新領域創成科学研究科の松浦康平大学院生、水上雄太助教、芝内孝禎教授のグループ、東京大学物性研究所の上床美也教授、量子科学技術研究開発機構(QST)の綿貫徹次長、町田晃彦上席研究員のグループ、日本原子力研究開発機構(JAEA)の福田竜生研究副主幹は、京都大学理学研究科の松田祐司教授のグループ、東京大学物性研究所の廣井善二教授、矢島健助教のグループ、香港大学、中国科学院の研究者らと共同で、鉄系超伝導体セレン化鉄(注1)において、化学的加圧(注2)と物理的加圧を複合的に用いることで、新しい高温超伝導相を発見しました。多くの鉄系超伝導体では、化学組成の一部を置換した化学的加圧の効果は、実際に試料に圧力を物理的にかけた場合と同様な変化を示しますが、セレン化鉄ではこれらの2つの圧力効果が大きく異なることが知られていました。化学的圧力ではこの物質が示す電子液晶相が抑制され、一方で物理圧力では磁性相が出現します。今回、化学的加圧と物理的加圧の2つを網羅的に調べることにより、電子液晶相と磁性相の両方が消失した状態を作り出すことに成功し、その領域で新しい高温超伝導が出現することを発見しました。超伝導転移温度と電子液晶相、磁性相の位置関係から、磁性相が高温超伝導のメカニズムに関わっていることも明らかになり、これらの結果は高温超伝導の設計指針に重要な手がかりを与えるものと考えられます。
本研究成果は2017年10月26日付けで、英国科学誌Nature Communicationsにオンライン掲載される予定です。
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