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東大・千葉工大・高知大など、過去の「超温暖化」を終息させたメカニズムの痕跡をインド洋の深海堆積物から発見

2017/9/12 18:00
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発表日:2017年9月12日

過去の「超温暖化」を終息させたメカニズムの痕跡をインド洋の深海堆積物から発見

 

1.発表者:

 安川 和孝(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 助教/千葉工業大学次世代海洋資源研究センター 招聘研究員)

 加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター/システム創成学専攻 教授/千葉工業大学次世代海洋資源研究センター 所長/海洋研究開発機構(JAMSTEC)招聘上席研究員)

2.発表のポイント:

 ◆約5,600~5,200万年前に繰り返し発生した急激かつ短期的な地球温暖化イベントの詳細な記録を、世界で初めてインド洋の深海堆積物から復元しました。

 ◆海洋の生物生産が増大して大気-海洋系から余分な二酸化炭素を除去することで温暖化が終息したことを、地球科学とデータ科学の融合的アプローチにより明らかにしました。

 ◆本研究の成果は、人類活動に起因する大量の温室効果ガス放出に対して、地球システムがどのように応答するかを数万年以上の長期スケールで予測する上で重要な知見となります。

3.発表概要:

 東京大学大学院工学系研究科の安川和孝助教、加藤泰浩教授、中村謙太郎准教授、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターの藤永公一郎上席研究員と高知大学海洋コア総合研究センターの池原実教授の研究グループは、前期始新世(注1)にあたる約5,600~5,200万年前に繰り返し発生した急激かつ短期的な地球温暖化イベントの詳細な記録を、世界で初めてインド洋の深海堆積物から復元しました。さらに、それらの化学組成データを統計的に解析し、当時の堆積物を構成する複数の独立な成分を分離・抽出しました。その結果、前期始新世の複数の温暖化イベントにおいて、海洋表層の生物生産が増大して大気-海洋系から余剰な二酸化炭素を除去する「地球システムの負のフィードバック」(注2) と呼ばれるメカニズムが機能し、温暖化を終息させていたことが明らかとなりました。本研究の成果は、人類活動により放出された大量の温室効果ガス(注3)がグローバルな環境や物質循環にどのような影響を与え、どのようにして元の状態へ回復していくのかを、数万年以上の長期スケールで予測する上で重要な知見となります。

4.発表内容:

 今から約5,600~5,200万年前の前期始新世は、恐竜が絶滅した約6,600万年前から現在までの新生代の中で、最も温暖な時代でした。この温暖なバックグラウンドの気候に加えて、さらなる温度上昇を伴う「Hyperthermals (超温暖化)」(注4)と呼ばれる、急激かつ短期的な地球温暖化イベントが繰り返し発生していたことが知られています。これらの「超温暖化」イベントは、大量の温室効果ガスが大気-海洋系に放出されたために生じたと考えられていることから、人類が現在放出している大量の二酸化炭素によって将来的に何が起こるかを知るための、地球そのものを用いた壮大なケーススタディとも捉えることができます。

 こうした前期始新世の「超温暖化」イベントの痕跡は、最近15年くらいの間に、太平洋や大西洋、北極海、オセアニア、ヨーロッパ、北アメリカなど、世界各地から次々と報告されています。しかしながら、世界第 3 位の面積を持つ大洋であるにも関わらず、インド洋における明瞭な記録はほとんど報告されておらず、インド洋は前期始新世の「超温暖化」に関して巨大な情報の空白域となっていました。

 そこで本研究グループは、国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所(注 5)に保管されている、インド洋で過去に掘削された深海堆積物コアから試料を採取し、化学分析を行いました。分析には、高知大学海洋コア総合研究センターの安定同位体質量分析計および炭酸塩分析装置ならびに東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンターの蛍光X 線分析装置および誘導結合プラズマ質量分析装置を用いました。その結果、「超温暖化」イベントを示す複数の炭素同位体比の異常(注 6)が確認され、世界で初めてインド洋における「超温暖化」の痕跡を高時間解像度で復元することに成功しました。これにより、前期始新世における一連の「超温暖化」イベントが全地球的な環境変動であったことが確実になりました。

 本研究グループはさらに、本研究で得られた炭素の安定同位体比と 29 種類の元素含有量から成る 30 次元の地球化学データセットを、独立成分分析(注 7)という多変量解析手法で解析しました。その結果、データが持つ全情報量の 84%が、統計的に独立している 4 つの成分:生物源炭酸カルシウム(石灰質プランクトンの殻)、生物源リン酸カルシウム(魚類などの歯や骨片)、海洋表層の石灰質プランクトン群集の変化または堆積後の続成過程の影響、生物源バライト(硫酸バリウム)で説明されることが分かりました。

 これらのうち、生物源バライトの堆積は、「超温暖化」イベント時の炭素同位体比異常と連動して増加していました。大気-海洋系の二酸化炭素は、海洋表層で光合成をする生物(プランクトン)によって有機物に変換され、深海へ運ばれます。その過程で有機物の一部は分解されますが、その際にバライトが生成し、海底へ沈降していきます。したがって、海底堆積物へのバライトの沈積量が増加することは、海洋における有機物の生産と深海への輸送、すなわち輸送生産性の増大を意味します。このことから、本研究で抽出した生物源バライトに関連する成分は、海洋の輸送生産性の増大が大気-海洋系内の余分な二酸化炭素を除去することで、温暖化状態から元の状態へと地球の気候を回復させる「負のフィードバック」を表していると考えられます。このフィードバックは、最も深刻な「超温暖化」であった約 5,600 万年前の暁新世/始新世境界温暖化極大(PETM)(注 8)で機能したことが先行研究により知られていましたが、より小規模な他の複数の「超温暖化」イベントにおいても同様に機能した普遍的なメカニズムであることが、本研究により初めて明らかとなりました。

 人類が現在放出している膨大な量の温室効果ガスが地球環境にどのような影響を与えるのかについては、数値シミュレーションによる研究が盛んに行われています。しかしながら、数万年以上の長期的時間スケールで正確に予測することは難しく、過去の地球環境変動の記録が重要なヒントとなります。本研究の成果は、急激な温暖化の発生に対して、その規模によらず海洋生物生産フィードバックが温暖化の終息に寄与することを示唆しており、将来の気候変動の長期的影響を予測する上で重要な知見となります(ただし、元々温暖な気候である前期始新世と、両極に氷床が存在する寒冷な気候である現在では、基準となる気候システムの状態が異なるため、フィードバックの働き方が異なる可能性があるという点に留意する必要があります)。

 今後、地球システムに内在するこうした負のフィードバックの機能するタイミングや、回復にかかる時間スケールをより詳細に明らかにすることで、地質学的時間スケール(数万年以上)と人類社会の時間スケール(数千年以下)のギャップを埋め、気候変動という現象についての本質的な理解が進むとともに、その影響を予測する精度の向上につながると期待されます。

 ※リリース詳細は添付の関連資料を参照

 

 リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。

リリース詳細

http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0456594_01.pdf

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