東大と産総研など、有機半導体の電荷とスピンの緩和機構を解明
発表日:2017年8月1日
世界初、有機半導体の電荷とスピンの緩和機構を解明
―室温有機スピントロニクスとシリコンに迫る高速有機エレクトロニクスに道―
1.発表者:
竹谷 純一(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授/マテリアルイノベーション研究センター(MIRC) 特任教授 兼務/産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 有機デバイス分光チーム 客員研究員 兼務)
渡邉 峻一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 特任准教授/JST さきがけ研究員 兼任/産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 有機デバイス分光チーム 客員研究員 兼務)
鶴見 淳人(日本学術振興会特別研究員)
2.発表のポイント:
◆単結晶有機半導体トランジスタ(注 1)の動作下(operando)ESR 測定に成功し、理想的な環境において、電荷とスピンに記憶される情報が失われていく緩和現象を世界で初めて明らかにした。
◆高移動度有機半導体において、伝導キャリアのフォノン散乱(注 2)によって電荷移動度やスピン緩和時間が定まっていることが明らかになった。
◆高い移動度と 1 ミリ秒以上の長スピン緩和時間を両立できる本有機半導体はグラフェンや無機半導体を上回るスピン輸送能(注 3)を示し、電力消費のないスピンによる情報処理(スピントロニクス)を有機半導体インクを用いた印刷技術により低コストで実現する道を拓いた。また、低温で分子振動(格子振動)を抑制し散乱頻度を低下させることで、電荷の移動度が 650 cm2/Vs にも達することが明らかになったことから、振動を抑制する分子設計によって、単結晶シリコン並みの高速エレクトロニクスデバイスが実現しうることを示した。
3.発表概要:
東京大学大学院新領域創成科学研究科(産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員 兼務)の竹谷純一教授らは、電界効果トランジスタ動作下における電子スピン共鳴(operando - ESR)測定を用いることで、有機半導体の電気伝導及びスピン伝導特性の解明に成功し、高移動度有機半導体でも無機半導体と同様に電子の散乱によって電荷の移動度やスピンの寿命が定まっていることを初めて明らかにしました。近年有機半導体の材料開発が活発に進んでおり、電荷移動度が 10 cm2/Vs を超える高移動度有機半導体が複数報告されています。これらの高移動度有機半導体では、従来は見られなかった無機半導体と同様のバンド的な電気伝導が確認されています。しかしながら、低温におけるキャリアの振る舞いやスピンダイナミクスについては未解明な部分が多数存在していました。今回、本研究グループで開発された大面積単結晶薄膜において、デバイス動作下での先端分光手法を用いることで、初めて高移動度有機半導体のスピン緩和機構を明らかにしました。さらに本研究では有機半導体の電荷移動度がフォノンによるキャリアの散乱によって制限されていることを明らかにし、有機半導体においても分子振動を抑制することで、電荷移動度が単結晶 p 型シリコンにも匹敵する 650 cm2/Vs に達しうることが予見されました。
本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Physics」平成 29 年 7 月 31 日版に掲載されます。
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