東大と理研、マルチフェロイクスにおける巨大なホール効果を発見
発表日:2017年5月16日
マルチフェロイクスにおける巨大なホール効果を発見
―磁性絶縁体における効率的な熱流制御に期待―
1.発表者:
井手上 敏也(東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 助教)
車地 崇(理化学研究所 創発物性科学研究センター 強相関物性研究グループ 基礎科学特別研究員)
石渡 晋太郎(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 准教授/JST さきがけ研究者)
十倉 好紀(理化学研究所 創発物性科学研究センター センター長/東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 教授)
2.発表のポイント:
◆磁性と誘電性が結合したマルチフェロイクス(注1)において過去最大の熱ホール効果(注2)が生じることを発見した。
◆マルチフェロイクス特有の強い格子・スピン結合に由来した新しい機構のホール効果であることが示唆される。
◆本研究成果が、マルチフェロイクスにおける新物性の開拓を促進させると同時に、磁性絶縁体における効率的な熱流制御技術の構築に期待。
3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科の井手上敏也助教、理化学研究所創発物性科学研究センターの車地崇基礎科学特別研究員、東京大学大学院工学系研究科の石渡晋太郎准教授、十倉好紀教授(理化学研究所 創発物性科学研究センターセンター長兼任)らの研究グループは磁気秩序と強誘電秩序を合わせ持つマルチフェロイクス Fe2Mo3O8、(Zn0.125Fe0.875)2Mo3O8において巨大な熱ホール効果が生じることを発見した。
熱ホール効果は、縦方向に流した熱流が曲げられて横方向に温度勾配が生じる現象である。通常の金属では電荷を持つ電子が磁場下で電磁気学的な力を受けて曲げられることによってホール効果が生じるが、電荷を持った素励起が存在しない絶縁体中では熱流は通常直進し、ホール効果が起こることは極めて稀である。現在までに、格子振動の素励起(フォノン(注3))や磁性秩序相における磁気励起(マグノン(注4))の熱ホール効果が特殊な物質で報告されていたが、熱流の曲がる程度を表す熱ホール伝導度はいずれも非常に小さかった。本研究では、磁気秩序と強誘電秩序を合わせ持つマルチフェロイクス Fe2Mo3O8、(Zn0.125Fe0.875)2Mo3O8において熱ホール効果を観測し、熱ホール伝導度がこれまで報告されているものより一桁以上大きな巨大な値を示すことを明らかにした。従来のようにフォノンやマグノンといった個々の素励起がホール効果を起こしているのではなく、マルチフェロイクスに特有の強い格子・スピン結合に由来した新しい機構のホール効果が起きていることが示唆される。
本研究成果は、マルチフェロイクスにおける磁性と誘電性が結合した新物性の開拓を促進させると同時に、磁性絶縁体における効率的な熱流制御技術の構築に寄与することが期待される。
本研究成果は、英国科学雑誌『Nature Materials』に日本時間 5 月 16 日午前 0 時(英国時間 5 月 15 日午後 4 時)に掲載される。
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