京大、日本の人と北米の人ではものの探し方が違うなど文化が視覚情報処理に与える影響を分析
発表日:2017年3月27日

日本の人と北米の人ではものの探し方が違う
■概要
文化が私たちの行動やものの考え方に強く影響するということには多くの証拠があります。その一方で、基礎的な視知覚の働きは文化によらずユニバーサルであり、私たちは皆、同じものを同じように見ているというように思われてきました。近年、こういった視知覚の働きにも文化の違いがある可能性が指摘されているものの、この種の処理に差はないという報告もあるため、文化や環境といった後天的な要因が視覚情報処理に影響を与えるかどうかはよくわかっていませんでした。
上田祥行 こころの未来研究センター特定助教、齋木潤 人間・環境学研究科教授、Shinobu Kitayama ミシガン大学教授、Ronald Rensink ブリティッシュコロンビア大学教授らの国際共同研究チームは、過去の矛盾する報告は比較的複雑な課題を用いた実験デザインにより思考や推論といった要素が入り込んでいたためだと考えました。そこで視覚情報処理のみに焦点を当てたシンプルな課題、具体的には、文化的に中立な意味をもつ幾何学図形(長短の線分、円と棒付きの円、垂直線と斜線)を用いて思考や推論、モチベーションの影響を可能な限り除き、文化が情報処理に与える影響を分析しました。
短い線分の中にある長い線分は、長い線分の中にある短い線分よりも見つけやすいと言われています(探索非対称性と呼ばれています)。北米の人を対象とした調査ではこの効果が強く見られたのに対して、日本人では、刺激の密度などを変化させてもこの効果はほとんど見られませんでした。また、別種の探索非対称性として、円の中にある棒付きの円はその逆よりも見つけやすいと言われていますが、この探索非対称性も日本人は北米の人を対象とした調査に比べて小さな効果しか見られません。しかしながら、日本人の探索非対称性がいつでも小さいのかというとそうではなく、垂直線と斜線の探索非対称性(垂直線の中にある斜線は見つけやすい)では、日本人のほうが北米の人を対象とした調査よりも大きな効果を示しました。
このように刺激によって文化差の大きさや向きが変化することは、注意の方略や思考・推論の過程の違いでは説明できません。そのため、これらの結果は視覚情報そのものを処理する過程に文化差があることを示唆しています。また本研究の結果は、一貫して、脳の視覚野の中でも比較的低次で扱われる特徴(傾きなど)に関する探索非対称性は北米の調査のほうが小さく、高次な視覚野で扱われる特徴(長さや線の組み合わせなど)に関する探索非対称性は日本人のほうが小さく見られたために、初期の視覚情報処理過程が環境によって変化する可能性を示唆していると考えられます。
本研究成果は3月25日、Cognitive Scienceに掲載されました。
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