神戸大など、太古に出現した細菌が植物光合成の仕組みを完成させていたことを解明
発表日:2017年1月13日
太古に出現した細菌が植物光合成の仕組みを完成させていた
<ポイント>
○40億年にもおよぶ生物進化の中で、光合成の代謝系がどのように誕生したのか、またその進化的な原点は何だったのかということは、これまで不明でした。
○地球誕生後の極めて初期に地球上に出現し、光合成を行わないメタン生成菌に、光合成においてCO2から糖を合成するための代謝経路の原型を発見しました。
○進化の過程で、光合成代謝に関わる各遺伝子が現在のものに進化してきた分子機構が明らかになるとともに、光合成機能を活用した食糧やバイオ燃料生産の増産につながることが期待されます。
JST 戦略的創造研究推進事業において、神戸大学の蘆田 弘樹 准教授(奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 元助教)と河野 卓成 学術研究員(奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 博士後期課程単位取得退学、本研究成果を元に現在博士号申請中)、立命館大学の松村 浩由 教授らは、光合成でCO2から糖を合成する生物機能の進化的な原型を、光合成を行わない原始的な微生物に発見しました。
光合成は、太陽光、水、CO2から糖などの炭水化物や酸素を作り出す、地球上の生物が生きていく上で欠かすことのできない生物の営みです。しかし、生物が進化の過程で、光合成の能力をどのようにして獲得したのか、またその進化的な起源については不明で、長い間、科学者の興味を惹いていました。
本研究グループは、光合成が誕生するよりも前に出現したと考えられているメタン生成菌が、光合成で働く遺伝子とよく似た遺伝子を持っていることを発見しました。これらの遺伝子から合成した酵素の解析や生体内の代謝物質を調べ、取り込まれたCO2の行方を明らかにするためのメタボローム解析を行うことで、糖などの炭水化物を合成する光合成の代謝経路とよく似た原始経路をメタン生成菌が利用していることを明らかにしました。
本研究により光合成の原始的な代謝経路の一部が明らかになったことから、今後、生物進化の過程でどのように光合成システムが完成されていったのかという、これまで科学が立ち入ることができなかった進化の謎が明らかになっていくと期待されます。また、さらに光合成の進化が明らかになることで、光合成機能を高度に改良・利用することができ、食糧やバイオ燃料の増産にもつながると期待されます。
本研究は、神戸大学、立命館大学、奈良先端科学技術大学院大学、ビルラ理工大学(インド)、大阪大学、静岡大学と共同で行ったものです。
本研究成果は、平成29年1月13日(英国ロンドン時間)発行のオンライン総合科学誌「Nature Communications」に掲載されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)/個人型研究(さきがけ)
研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」(研究総括:松永是 東京農工大学 学長)
チーム型研究(CREST)
研究課題 「海洋性アーキアの代謝特性の強化と融合によるエネルギー生産」
研究代表者 跡見 晴幸(京都大学 教授)
研究期間 平成23年4月~平成28年3月
個人型研究(さきがけ)
研究課題 「バイオ燃料高生産のための炭素固定能を強化したスーパーシアノバクテリアの創成」
研究代表者 蘆田 弘樹(神戸大学 准教授)
研究期間 平成23年4月~平成25年3月
JSTはこの研究領域で、高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがある藻類・水圏微生物に着目し、これらのポテンシャルを生かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指しています。上記CREST研究課題では、アーキアにおけるバイオマス分解およびバイオエネルギー生産に関わる機能の理解、強化および他生物機能との融合を進め、新機能を示す微生物の創成を行う研究を行いました。また、さきがけ研究課題では、光合成CO2固定酵素の機能強化により光合成機能を改良したシアノバクテリアを創成し、これをバイオエタノール生産に応用する研究を行いました。
<研究の背景と経緯>
光合成は、生命を維持するうえでのエネルギー源になる糖などの炭水化物を太陽光、CO2、水から合成するもので、地球上のほとんどの生物が依存している生物機能です。地球誕生後の生物進化の過程で、光合成システムがどの様に誕生し、確立されてきたのか、また、その進化的原点は何だったのか、という疑問には科学はまだ答えておらず、長い間、科学者の大きな興味を惹いていました。われわれはこれまで光合成を行わない納豆菌などの枯草菌がほとんどの光合成生物でCO2固定(注1)を行っている酵素であるルビスコ(RuBisCO)(注2)の遺伝子とよく似た遺伝子を光合成を行わない納豆菌などの枯草菌が持つものの、そのルビスコ様酵素はCO2固定を行わず、光合成とは全く関係のない代謝経路中で働いていること、その機能は多くの植物でRuBisCOが担う反応のごく一部とよく似た反応に関わっていることを、世界に先駆けて解明し、2003年に奈良先端科学技術大学院大学の学生だった蘆田准教授らが米国の科学誌Scienceに発表しました。この研究成果は、地球上に光合成システムが誕生する以前の生物にまで遡った光合成遺伝子進化研究に先鞭をつけましたが、枯草菌RuBisCO様遺伝子の由来やCO2から糖を合成するためのRuBisCOが働く光合成カルビン回路(注3)が誕生してきた分子レベルでの説明までは到達しませんでした。
※研究の内容などリリース詳細は添付の関連資料を参照
リリース本文中の「関連資料」は、こちらのURLからご覧ください。
研究の内容などリリース詳細
関連企業・業界