LINE長者、花盛り 「返事マダ?」で800万円

無料対話アプリ「LINE」で一獲千金――。LINE(東京・渋谷)が打ち出した参加型のサービスが一般のユーザーにもビジネスチャンスを生んでいる。チャットで使うイラスト「スタンプ」を販売できる仕組みを利用して、1000万円以上を稼ぐ「LINE長者」が続々誕生している。
「クリエーターのみんなに今までになかった大きな市場をつくれました」。LINEの森川亮社長は11月26日、スタンプ制作者を表彰するイベントで、自作のスタンプを販売できるサービス「クリエーターズマーケット」の成果を強調した。
スタンプはチャットで使う感情表現用のイラストで、LINEが爆発的に普及するきっかけとなった機能だ。従来はLINEや企業が制作する公式スタンプしか販売していなかったが、5月に一般の人がつくった作品を販売できる同サービスを開始した。1セット100円の販売価格の約50%が制作者の収入となる。
スタンプ制作者はサービス開始から半年で27万人を突破し、販売総額は36億円に達した。驚くべきは人気スタンプの売り上げだ。販売額上位10位の平均は3680万円で、1人当たり1800万円近くの収入を得た計算となる。上位1000位平均でも販売額は270万円で、制作者は100万円以上を稼ぐ。

スタンプ制作者の表彰でグランプリに選ばれたのは学生の小嶋わにさん。欧米風の人物が「なんでやねん」など関西弁をしゃべるスタンプが人気を集めた。小嶋さんは子供のころから絵を描くのが好きだったが、専門的に学んだ経験はないという。「卒業後はイラストレーターになれればいい」と夢を語る。
スタンプ制作をきっかけに人生が一変した人もいる。LINEでやり取りする際に問題になるのが、メッセージを読んだのに返信しない「既読スルー」だ。森もり子さんは女性のキャラクターが「返事マダ?」などと、彼氏に詰め寄るスタンプを5月に発売し、ダウンロード数が初登場1位となった。これまでに約20万セットを販売し、800万円ほどの収入を得た。
森さんが女性心理をつぶやくツイッターがネット上で話題になったこともあり、8つの出版社から書籍出版の打診が舞い込んだ。森さんは一般企業の営業職だったが7月末で退職し、イラストレーターや執筆家として生きる道を選んだ。11月にはイラストエッセー「もっと私にかまってよ!」(マイナビ刊)など2冊を刊行した。森さんは「半年前までは会社を辞めて本を出すとは思いも寄らなかった」と自身でも驚きを隠さない。
スタンプ販売は周辺ビジネスも生んでいる。
「人物でゆるキャラ系のLINEスタンプ作成5万4000円」。ネット上で仕事の受発注を仲介するランサーズ(東京・渋谷)のサイトには、スタンプの作成依頼が200件以上並ぶ。プロのイラストレーターらが受注し、発注者の要望に沿って制作する。契約が成立するとランサーズには発注額の20%の手数料が入る仕組みだ。
フリーランスのウェブデザイナー、浜野久美子さんは9月にスタンプ制作を初めて受注した。LINEのスタンプは計42種類のイラストを用意する必要がある。発注者の下書きを完成品に仕上げ、6万円の収入を得た。

自らアイデアを出して42種類のイラストを描くのは相当の労力がいり、販売してもヒットするとは限らない。LINEによると既に3万点以上の自作スタンプが販売されているが、このうち6割は売上高1万円未満という。浜野さんはスタンプ制作の受注で「収入を確実に得られる機会が増えた」と話す。
「LINEスター」も誕生した。10月にLINEがソニー・ミュージックエンタテインメントと組んで開催したオーディションには、国内最大規模の12万5000組が参加した。グランプリに選ばれたのは中学3年生の女子、かつてテレビ局などが担ったスター発掘機能を果たす。
LINEの対話アプリは世界で5億6000万人以上が登録するが、利用実態を示す月間利用者数は1億7000万人と、競合の米ワッツアップ(6億人)や中国の微信(ウィーチャット、4億6800万人)に水をあけられている。
だが、世界展開しているクリエーターズマーケットには145カ国・地域の制作者が参加し、現地の文化に根ざしたスタンプを続々と生み出している。
米グーグル発の「ユーチューバー」ならぬLINE長者が世界中で誕生する可能性もある。一般の利用者を巻き込んで成長するLINE流の「エコシステム」は、ライバル追撃の切り札となるかもしれない。
(村松洋兵)









