2019年8月20日(火)

神戸にイノシシ、日常風景(とことんサーチ)
餌付けご法度、山へ帰す一歩 人への危害防止 捕獲頭数3割減

2017/1/28 6:00
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午後9時ごろ、神戸市中央区の北野地区を歩いていると、通りの反対側のごみステーションに何やら動く黒い影があった。猫にしては大きく、よく見るとなんとイノシシだ。そういえば神戸の人はイノシシを見慣れていると聞くが、驚かないのか。なぜ山から街に下りてくるのか。イノシシと神戸の関係を探った。

出没エリアとして知られる神戸市東灘区。阪急神戸線岡本駅近辺の住宅街を通行する20人ほどに「見かけたことはありますか」と聞いたところ、ほとんどが「ある」と答えた。

20年ほど前から同区に住む50代女性は夕方、スーパーからの帰り道でよく遭遇すると語る。「何十回も見ているので『あ、またか』という感じ」。スーパーのレジ袋は狙われやすいためかばんにしまい、目を合わせず去るようにしている。

大阪府豊中市から引っ越してきた40代男性は2016年夏に3度遭遇した。「小ぶりだったが怖くて毎回道を引き返す。周囲が冷静なことに驚いた」。北区から甲南大学に通う2年生の当山鎮也さん(19)は入学後、大学近辺で5~6回見かけた。「最初は緊張したが先輩が気に留めない様子を見て慣れた」と話す。

市によると16年4~8月に住民から受けたイノシシ関連の問い合わせは東灘区が63件と市内トップだった。岡本駅のそばを流れる天上川の川床には15年秋まで10頭以上がすみ着き、その後も早朝や夜に道路を歩く姿が目撃されている。筆者が遭遇した中央区も問い合わせは35件と2番目に多い。灘区を含む多くの市民にとってイノシシが日常的な光景なのは確かなようだ。

こうした市街地が六甲山に近いため出没しやすいことは分かるが、なぜわざわざ街に下りてくるのか。もしかして山で餌がとれにくいのか。兵庫県森林動物研究センターでイノシシを研究する横山真弓研究部長に尋ねると「今の六甲山にはミミズや木の根など餌が豊富にあり、快適にすめるはず」と答えてくれた。

六甲山は長年の植林活動によって1960年代から緑化が進み、現在のような森林が育った。98年ごろまで4千頭前後だった県内のイノシシの推定頭数は近年、1万5千~2万頭に増えたとされる。それでも街に下りてくる本当の理由は「人間が餌を与えているから」(横山氏)らしい。

イノシシは賢い動物で、パンなど栄養価が高い食べ物を人間から与えられると「山で餌を探さなくても人間から楽にもらえる」と学習してしまう。緑化前の六甲山を知る人の中にはイノシシが林地開発の影響で餌を見つけられず街に下りてくると誤解する例があり、動物愛護のつもりで餌付けする人もいるという。指定時間外にごみを出すのも餌付けと同じ結果となる。

街でのトラブルは多い。「レジ袋を持つ人を小突いたりごみステーションを荒らしたりする被害が多い」(市経済観光局農政部調整担当課長の岡田敦氏)。かまれたり衝突されたりする事故も油断できない。そういえば東灘区で話を聞いた49歳女性は「14年春にお尻をかまれたアザが1年とれなかった」と話していた。

市は問題が深刻化し始めた02年にイノシシへの餌付けを禁止する条例を制定し、違反者に中止や是正を勧告するなど対策を進めてきた。だが思うように効果が出ず、被害がピークとなった14年に市内の掲示板やホームページで違反者の氏名を公表できるよう条例を改めた。15年には夜間や休日も対応する「市鳥獣相談ダイヤル」を設けた。

こうした対策により、市民の苦情に伴う捕獲頭数は15年度で588頭と前年度比約3割減った。市は出没が減少したとみている。

「餌付け禁止やごみ出しの時間を守れば人間は街、イノシシは山で平和に暮らせる」と岡田氏は強調する。誤解を持たず生態やルールを正しく知ることが共存への第一歩といえそうだ。

(神戸支社 杉浦恵里)

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