勉強しまっせ 値切りのこつ(とことんサーチ)
端数切り、合わせ技、おまけ付き 金額より「お得」で勝負

2015/12/12 6:00
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■会話楽しむ心が大事?

「この服いくらで買うたと思う? 値切ってたったの500円やで」「へー、ええなあ」――。関西では買い物の際に試しに値切る人が多いと聞く。本当なのか。実際に店頭で値切りが通用するのか。二十数年間、一度も値切った経験のない記者が京阪神の商店街で挑戦しつつ、「値切り文化」の実情を探った。

「端数まけて」と冗談まじりに話しかける主婦(左)を笑顔でかわす店員(右)(大阪市中央区)

「端数まけて」と冗談まじりに話しかける主婦(左)を笑顔でかわす店員(右)(大阪市中央区)

まず神戸の水道筋商店街(神戸市灘区)へ。「どの店にしよう」。尻込みしていたらいつの間にか商店街を抜けていた。引き返すと青果店が目の前に。さあ。

「こんにちは。おいしそうですね」。元気よく話しかけると「お買い得だよ」。お、いきなりチャンス。「もう少しだけ……」と目を合わせると「値引きはしとらんよ」と一蹴された。店主の松本隆夫さん(65)は「神戸で値切るやつはほとんどおらんよ」。

気を取り直し、近くの洋服店へ。今度は単刀直入に「このマフラー安くなりませんか」。女性店員は「はい、なりません」とにこり。この店で娘のコートを定価で買った神戸市在住の大路由紀子さん(61)は「値切ろうと思ったことはない」ときっぱり。

あれ、想像と違うぞ。次は京都の錦市場(京都市中京区)に。標準語だからダメなのか。よし。「このホタテ、なんぼします?」「500円です」「450円にならへんの」「んー、無理ですねー」。典型的な「えせ関西弁」が空回り。後味の悪さだけが残った。

今度は揚げ物店で「オバちゃん、ゴボウ天、ちょっとだけまけてー」。優しそうな人に問いかけたが「商売だからね」と冷静に断られた。この女性(65)は「京都で値切るのは難しいと思うわよ」とさらり。

「関西人は値切る」は思い込みだったのか。消費者行動を研究する関西学院大学の須永努教授によると、そんなことはないらしい。「関東では高値で買ったことを誇り、関西ではいかに安く買ったかを自慢する傾向があります」。続けてこんなヒントをくれた。「中でも商都として発展した大阪はその色が濃いですね」

今度こそ。祈るような気持ちで大阪の黒門市場(大阪市中央区)へ。「ほら買うてき」。市場に入るなりオジちゃんから声が掛かった。「どれがおすすめですか」「この高級マグロ(3510円)は絶品やね」「手が届きません。少しまけてくださいよー」「せやなー、10円ならええよ」

さすが大阪。「本当に少しですね」と口に出かけたが、値切れたうれしさから、つい買ってしまった。

関西の商業史に詳しい大阪商業大学の伊木稔教授は「関西、特に大阪では上方商人の価格交渉の文化が色濃く残っている」と解説する。記者にまけてくれた男性は「端数を切り捨てたり、2品の合計額を値下げしたりするのは大阪では結構ある」と教えてくれた。鉄板焼き店の店主も「1円でも安く買いたいオジちゃんオバちゃんはいる。お得感が大事だから、少し肉を増やすようなおまけは空気次第でやるよ」と話す。

ただ、その大阪も時代の変化にはあらがえないようだ。黒門市場でホルモン焼きを売る山田幸恵さんは「最近は1万円分買う中国人観光客が増えて、売り手に値引きの感覚が薄れた。ネット通販やカード決済の普及により買い手も店頭で交渉する意識が弱まっている気がする」と話す。

伊木さんは「かつては節約が目的だった値切りも、今では店主とのコミュニケーションの側面が強くなっているようですね」と話す。確かに「端数くらいまけてーなー」と楽しそうに笑う主婦を大阪でみかけた。関西では買う側も売る側も価格交渉を通じた会話や駆け引きを楽しんでおり、双方にそれを受け入れる度量があるのだろう。

値切り交渉は結局、1度しか成立しなかったが、こんな場面があった。「兄ちゃん、値切りの取材大変やな。串かつまけたろか?」。値切りの風習が薄れても関西人のユーモアと人情は変わらないに違いない。

(神戸支社 竹内悠介)

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