2019年1月20日(日)

極限の薄さ 神宿す 山本合金製作所の「魔鏡」(ここに技あり)
京都市

2016/2/9 6:00
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1月下旬、西本願寺(京都市)近くの工房を訪ねた。シャッターを下ろして照明を消した暗闇の中で1枚の鏡にライトを当てる。反射光をスクリーンに当てると像が浮かび上がった。はりつけにされたキリストの足元で、2人が祈りをささげている。神々しい光に思わず息をのんだ。

光を鏡面に反射させると、松やツルを描いた銅板で隠したキリスト像が浮かび上がる

光を鏡面に反射させると、松やツルを描いた銅板で隠したキリスト像が浮かび上がる

■隠した聖像映す

山本合金製作所(同)は鏡の背面に隠された模様を映す「魔鏡」を国内で唯一製作する。江戸末期の創業で、神社や寺に納める金属製の和鏡を製作する「鏡師」を代々継承してきた。

5代目の山本晃久さん(40)が手にする鏡は背面に松やツルの柄が入った銅板がかぶされ、一見、キリスト像の模様があるとは分からない。隠れキリシタンが使ったとされる魔鏡と同じつくりだ。「人目を忍んで祈りをささげたのでしょう」と当時に思いをはせた。

魔鏡は模様を施した鋳型に青銅地金を流し込み、背面を作る。その後、鏡面を削って薄くすると微細な凸凹が生まれる。光を当てると乱反射して背面の模様を映し出す。通常の和鏡を魔鏡にするにはやすりや「せん」という道具で1カ月ほどかけて鏡面を4ミリメートルから1ミリメートルまで薄くする。集中力が必要で「一日4時間ほどが限度」(山本さん)。

難しいのがどこまで削るかの見極めだ。魔鏡の現象は鏡が薄いほど起こりやすいが、削りすぎると破れてしまう。鏡自体の厚さも場所によって微妙に異なり、均一に削っても破れることがある。「どこで止めるか。判断はいつも難しい」

■法王献上品に

大学生の時、アルバイト感覚で家業を手伝った。「少しずつ精度を上げていくものづくりが好きになった」。20代後半で魔鏡作りを始めた。日本で途絶えていた魔鏡の製作技術を復活させた祖父に師事した。「一人前の鏡師になるには30年かかる」。2014年に安倍晋三首相がローマ法王に献上した魔鏡を手掛けるなど、実績を積んだ今も祖父の言葉を忘れない。

安価なガラス鏡が一般的な今、鏡師は「もう自分が最後ではないか」。一方、その技を一目見たいと海外からも問い合わせが来る。「山本が作った鏡だから欲しい」。そんな声に応えるため今日も鏡と向き合う。

文 京都支社 古川慶一

写真 尾城徹雄

〈カメラマンひとこと〉
 魔鏡が浮かび上がらせる潜像はおぼろげだ。大きくはっきり映そうと近くから光を当てると、像の輪郭は崩れてしまう。ほどほどが大切だ。古墳から出る三角縁神獣鏡も魔鏡だったという説がある。古代人も、太陽を光源にして投影方法を工夫していたのだろうか。

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