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風に乗り、自然に溶ける 新宮晋の屋外造形展示場

風を受けて動くオブジェで知られる造形作家、新宮晋の屋外常設展示施設「風のミュージアム」がこのほど、兵庫県三田市に開設された。「風の彫刻家」とも呼ばれる新宮だが、遊び心に満ちた作品の動きは「むしろコレオグラファー(振付師)を意識している」という。

作品を背景にポーズをとる新宮晋(兵庫県三田市の風のミュージアム)

タテ、ヨコ、斜め……。滑らかに、軽やかに、一方は重々しく……。無数の回転軸が複雑に作用し合う。ある点で均衡したかと思いきや、一転してそのバランスは崩れる。想定を裏切る精妙な動きは、どれも風のしわざだ。

三田市の県立有馬富士公園。子どもたちが好奇心に満ちた視線で動きを追い、歓声を上げる。千丈寺湖畔に面する丘陵の一角に「宇宙の翼」「風の結晶」「ソアリング」など、これまでの新宮作品12基と、水辺にたたずむ新作の「風のロンド」を加えた常設展示場が6月21日に開業した。

1937年大阪生まれの新宮は現在、三田市在住。「屋内でなく、屋外で動いているのを見た人の笑顔がはじける。それが屋外造形の真骨頂。ここには地形を生かし半円状の古代ローマ野外劇場のような空間もある。実際に舞台芸術をあれこれ上演したら面白いかも。そうなると、僕にとっても本望なこと」

「実は自宅がこの施設が見えるほど近いところにあるんです。豊かな自然にひかれて25年住んできた。昨年春先にこの山腹が削られはじめ、苦々しい思いで眺めていたら、なんと自作を展示する場所になった」とおどける。

風を受けて緩やかに動く作品たち(兵庫県三田市の風のミュージアム)

新宮作品はすでにイタリアをはじめ米、仏、韓国など国内外に158点が展示されている。もっとも各地には点在するばかりで、まとまった施設はここが初めてという。

絵画からスタートした新宮が立体造形に手を染めたのは、東京芸大卒業後、イタリアに留学していた1960年代半ば。作品を木につるして写真に撮ろうとすると、風にあおられてなかなかじっとしてくれない。「いらいらしたとき、風で動く作品を作ったら、と発想をひっくり返したのが原点」と明かす。

美術家としては異色だが新宮は小型飛行機の操縦資格を持っている。当然、上昇と下降、回転に伴う遠心力に風圧計算といった流体力学の工学的知識もある。こうした特殊な知見が「振付師・新宮晋」の創作に役立っていると考えて差し支えなさそうだ。

「ただ、まず作る前に設計図を書けといわれたのには面食らった」と告白する。40年以上も前、イタリア滞在中に出会った大阪の造船所社長が新宮のアイデアを高く買い、作品化を応援してくれた際のエピソードだ。

いまでこそ、溶接や技術的なノウハウにも精通したが、それまで創作は感性と想像力が頼り。「作りたい立体作品は念頭にあっても、いざ組み立てるのにパーツごとに長さは何センチという具体性が欠けていた」。その後の猛勉強が「風の彫刻家」を育てる。

今は風という自然の恵みの大切さを作品を通じて訴える。かねて提唱する「ブリージング・アース(呼吸する大地)」は、風力や太陽光だけで自立する村をつくろうという発想が原点。環境保護意識や再生可能エネルギー見直し機運の高まりを受けて、大きなうねりになってきた。

「ここ(風のミュージアム)が、その発信拠点になれば」。万年青年を思わせる77歳に、追い風が吹いている。

(編集委員 岡松卓也)

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