世相や作家性 鮮やかに ポスターの「美術」に迫る展示続々

2016/6/5 6:00
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美術作品としてのポスターの魅力に迫った展覧会が関西で相次ぐ。本来は明確な目的のため、大量に制作される宣伝媒体だが、斬新なデザインや大胆な構図は絵画以上に興味深い。制作時の世相を反映していたり、作者のメッセージが込められたりと多彩な観点から楽しめる。

田中一光「Nihon Buyo」(1981年、国立国際美術館蔵)
(C) Ikko Tanaka/licensed by DNPartcom

田中一光「Nihon Buyo」(1981年、国立国際美術館蔵)
(C) Ikko Tanaka/licensed by DNPartcom

国立国際美術館(大阪市北区)の「田中一光ポスター展」(19日まで)は戦後日本のグラフィックデザインの第一人者、田中一光(1930~2002年)の初期から晩年まで約50点を並べ、業績を振り返る。

同館の安来正博主任研究員は田中の最大の特徴を「日本の伝統文化と欧米のモダンデザインを融合させたこと。生涯このテーマを追い続けた」と指摘する。例えば代表作の一つ「Nihon Buyo」(81年)。髪を結った着物姿の女性が画面いっぱいにデフォルメされている。米国で開催されたアジアの舞台芸術を紹介するイベント向けに制作された。

能楽や音楽イベント、デザイン展など多岐にわたる仕事が並ぶ。共通するのは簡潔な表現。「Nihon Buyo」同様、海外から見て時に難解な日本文化のイメージを端的に伝え、印象付けることに成功している作品が目立つ。

田中は奈良市出身で、京都市立美術専門学校(現京都市立芸術大学)を卒業。若くして頭角を現し、64年の東京五輪などのイベントや民間企業のデザイン事業に関わり、海外での知名度も高い。関西との縁は深いものの、早々と東京に拠点を移したこともあり、大阪での大規模な回顧展は珍しい。今展を機に関西ゆかりの作家として再評価が進みそうだ。

「怒りのキューバ」(映画は1964年、キューバ=ソ連、ミハイル・カラトーゾフ監督、ポスターは同年、レネ・ポルトカレーロ)

「怒りのキューバ」(映画は1964年、キューバ=ソ連、ミハイル・カラトーゾフ監督、ポスターは同年、レネ・ポルトカレーロ)

京都国立近代美術館(京都市左京区)では「キューバの映画ポスター」展(7月24日まで)が開催中だ。59年の革命から90年ごろまで、ポスターを中心に85点ほど展示する。実はキューバは知られざる映画大国。59年の革命後、国策として映画を大量に制作し、90年以降に世界的に評価された作品が多い。

そうした作品の1つ「怒りのキューバ」はバティスタ独裁政権末期の虐げられる庶民を描いた共産党のプロパガンダ映画だが、詩情に富んだ映像美が米国などで絶賛された。同作のポスターは人物の横顔を中心に赤と黄、青を組み合わせ、映画のイメージを象徴的に伝える。

戦後の各国のポスターがオフセット印刷で大量生産されたのに対しキューバでは主に経済的、技術的な理由からシルクスクリーンによる手刷りが存続した。独特の風合いを持ち、よく見ると紙の上にインクが載っているのが分かる。

カリブ海の島国の強烈な日差しの下でも際立つよう、明確なコントラストを強調し、明るい色調の作品が多いのも特徴。同館の池田祐子主任研究員は「世界的に見て独自のポスター文化を築いた」と述べる。

横尾忠則現代美術館(神戸市灘区)は「横尾忠則展 わたしのポップと戦争」展を開く(7月18日まで)。「ポップ」と「戦争」をテーマにした横尾のポスターなど約120点を展示する。「TADANORI YOKOO」は首をつった作家自身らしき人物と幼少時の写真、太陽や富士山などを配置する。

何かを宣伝するのがポスターの役割だが、横尾の作品は「自分自身を宣伝し、他者に伝えるものが多い。ポスターの世界の枠を大きく広げた」と同館の山本淳夫学芸課長は言う。

ポスターは作者の意図を明確に反映し、世相に強く影響される。デザインや構図に加え、作者の意図や背景にまで踏み込んで各ポスター展を巡ってみたい。

(大阪・文化担当 田村広済)

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