2019年8月26日(月)

合評で鍛える文芸道場
大阪文学学校、新たな出発

2015/4/12付
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田辺聖子、玄月、朝井まかてら、関西から芥川賞・直木賞作家を輩出した大阪文学学校が、このほど創立60周年の祝賀会を開いた。修了者は1万2500人を超す。細見和之校長は"還暦"を迎えた背景を「効率化の波に流されない講師陣の面倒見の良さ」と話す。

生徒同士が小説を批評し合う大阪文学学校の授業(大阪市中央区)

生徒同士が小説を批評し合う大阪文学学校の授業(大阪市中央区)

空堀商店街に近い大阪市中央区谷町七丁目にあるビルの一室。ある日の大阪文学学校の教室をのぞいた。受講生は中高年男女に交じり、勤め帰りとおぼしき30歳前後の姿もちらほら。講師を含め15人前後が、長い机を囲んで熱い議論を交わす。

「奇妙な世界観を、怖いもの見たさで読ませた。穴の深さを心の闇と受け取った」「なぜ穴を掘るのか主人公の動機がよく見えない」「終盤で主人公に距離を置くような描写があるのが残念。作者は客観的になって"お利口"ぶらず、主人公と一心同体を貫いてほしかった」――。

受講生が提出した作品を、仲間たちが順に遠慮なく批評していく。最後に講師(チューター)が締めくくり講評する。この合評が、大阪文学学校の授業の基本的な進め方だ。関係者も「合評こそ文校(大阪文学学校の愛称)の最大の売り物」と異口同音にいう。

合評は毎回、2作品を俎上(そじょう)に載せる。具体的な書き方やどう表現するかといった細かいノウハウは指南しない。在校生は初年度から創作者として試される。

「おのおの作風も違えば、エンターテインメントも私小説もある。在校生は自作が批評にさらされる一方、他人の作品も厳しい目で読む。一連の過程を通じて足りない構成力や表現力を磨いてもらう」。チューターを兼ねる小原政幸事務局長が説明する。

学校法人でなく一般社団法人の大阪文学協会(大阪市中央区)が運営していることもあり、教育機関というよりも、有志が互いに腕を磨いて鍛錬する、一種の道場のような趣だ。

学費は年間11万円。ほかに月刊機関誌「樹林」の購読料と教材費で1万円。春と秋入学の2期制で、受講生は原則「小説」と「詩・エッセイ」のいずれかのクラス(週1回)に属する。昼間部と夜間部のほか、通学できない人向けには通信教育部もある。現在の在籍者総数は460人(1月20日時点)。

初年度を本科、2年度を専科とし、3、4年度を研究科とする。進級せずに、初年度だけ修了して離れていく人もいる。

細見和之校長

細見和之校長

大阪文学学校は1954年7月に開校した「大阪・詩の教室」が前身。詩人の小野十三郎が初代校長に就いた。91年に同じく詩人の長谷川龍生が小野に交代し、3代目の細見校長は2014年11月に就任した。

受講生の中には400字詰め原稿用紙300枚もの大作を提出してくる猛者もいる。「一般のカルチャー教室なら、長すぎて受け取らないのでは。ところが文校はクラス全員とチューターが読む。非効率をいとわない」と細見校長。

チューターは大半が文校に在籍した経験がある。細見校長自身もOBで、本職はドイツ思想が専門の大阪府立大学教授。三好達治賞を受賞した詩人としても活躍する。

昨年、朝井まかての直木賞受賞で脚光を浴び、受講希望者が膨らんだ。近年、柴崎友香、藤野可織ら関西出身者が文壇で存在感を放っているが、大阪文学学校が関西の文学界の裾野を広げてきたのは確かだろう。「学校の規模拡大? 今の非効率を犠牲にせざるを得ないから、ありえないのでは」(細見校長)。4月12日から新年度のクラスが始まる。

(編集委員 岡松卓也)

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