2019年4月23日(火)

専門知識 もんでほぐす 評論家 山崎正和さん
文壇・論壇の後進育成へ研究会

2015/11/1 6:00
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評論家で文化功労者の山崎正和が文壇・論壇での後進育成を目指した「『知』の試み研究会」をこのほど立ち上げた。若手研究者を対象にして、一般向け著作刊行デビューまでに踏まえておくべき心得を、2年半ほどかけて大阪と東京でセミナー形式で手ほどきする。別名は「山崎塾」だ。

■学術出版でなく「芸」がないとダメ

「細分化・専門化が進んだ学問の世界で、若手研究者は学会発表や、紀要などに論文を書いて経験を積んでも、畑違いの人にどうすれば伝わるか、ぎこちなさが残りがち。門外漢からの質問にさらされることを通じて、とがった専門知識をもんでほぐす練習をし、新たな切り口のヒントや留意点を見つけてもらう」

塾長として注文を付け、助言もする山崎塾の狙いをそう明かす。

10月1日、東京・如水会館で第1回が開かれ、まず口火を切った。「発表制限時間は20分。内容を要領よく簡潔にまとめる能力は本を書くときにも大切だから、これを好機と思って鍛えましょう。それから専門用語は使わないように。もしどうしても、というときは必ず簡単な解説をつけてください」

塾生2人が発表にまわり、異分野の若手塾生から質問を浴びるという段取りで進んだ。今後約2年半かけて全10回、東京と大阪で代わる代わる開く。

「本日の発表内容を本にするなら、タイトルをどうつけるか。中身を要約しただけだと、書店ではまず手に取ってもらえない。出席者皆さんに答えてもらいます。人ごとと思わず、そのつもりで考えて」と塾生に注文をつける。

塾生はサントリー文化財団の助成を受けた若手研究者を中心に博士論文を書き終えた気鋭15人で構成。専門は近現代の政治・外交や経済・社会、中世宮廷の空間構成と生活様式、古代トルコ系遊牧民などで、地域や時代は多岐にわたる。

塾は理事として長年携わってきた財団の事業の一環だ。1979年の創設時、サントリーの佐治敬三社長(当時)から「財団としてどんな事業をすればいいか」と相談を受けた。山崎は3本柱の学芸賞、地域文化賞、研究助成を提案する。

このうち、金看板に育ったのがサントリー学芸賞。「東京一極集中が進む出版文化に、関西から一石を投じる」との意図を込めた。自身も賞の発足以来選考に関わってきた。

視野の広い評論家・研究者を顕彰しようという狙いがある。受賞者には五百旗頭真、北岡伸一、猪木武徳、井上章一、鹿島茂、田中優子、青木保、上野千鶴子、中沢新一、鷲田清一ら論客がずらり。

「単なる学術出版でなく『芸』がないとダメという趣旨で学芸賞と名付けた。受賞すれば箔がつき、大学での昇進も夢じゃないとささやかれもした」と振り返りながらおどける。

昨年、財団副理事長を退いたのを機に退職金全額を返上、その代わりに「山崎塾」を発案した。財団は研究者への助成も手掛けるが、学芸賞に比べ地味な印象が拭えない。

もともと「若手研究者とジャーナリズムとの橋渡しが、財団に欠けているのでは」との思いがある。

長期化する出版不況で、新進著述家のデビューは一段と狭き門になってきた。一方、文部科学省の大学院拡充政策で博士研究員(ポストドクター)が増えているものの、その後、准教授や教授にステップアップしていくのが難しく、研究に専念できる道も険しくなっている。

「生涯"一芸者"であり続け、置き屋の女将にはならないつもりできた」となお意気盛ん。81歳の重鎮が後進を指南し、出版界と結ぼうとする試みは、どんな実を結ぶだろうか。

(編集委員 岡松卓也)

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