2018年12月12日(水)

関西のデパート、なぜ「○○店(みせ)」(謎解きクルーズ)
伝統の呼び方守る/優しい響きを表現 「てん」では大げさ?

2014/12/6 6:30
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大阪・梅田で買い物中、「大丸梅田店(うめだみせ)にお越しいただき、ありがとうございます」と店内放送が流れた。「梅田店(てん)と呼ぶのが普通では」と不思議に思って尋ねると「関西の店舗は『○○みせ』と呼んでいます」とのこと。そう呼ぶ客が多いからだという。関西流の呼び方なのだろうか。

大丸松坂屋百貨店広報部によると、直営店のうち関西にある京都、梅田、心斎橋、神戸の4店は「○○みせ」と呼ぶ一方、東京や札幌の店は「○○てん」と呼ぶ。「詳しい経緯は不明だが、それぞれの地域でそう呼ぶお客が多いから」という。

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他の百貨店にも聞いた。店舗名に「店」という字が付かず「西宮阪急」などと呼ぶ阪急阪神百貨店のような例もあるが、大手3社が展開する松坂屋、三越、伊勢丹、高島屋は「○○店」という店名は「てん」と呼ぶのが正式となっている。

ただ高島屋によると「関西には『大阪みせ』『京都みせ』と呼ぶお客や社員がいる」。やはり関西流のようだ。

大丸や高島屋の前身になった関西の呉服店の慣習だろうか。京都の呉服業界関係者に聞くと「確かに『○○みせ』と呼ぶ人が多い。『出店(でみせ)』と同じ感覚では」と教えてくれた。「『てん』ではどうも大げさで仰々しい。『みせ』のほうが親しみやすい」とも。

大丸の元社員が戦前に著した回顧録をひもとくと、1900年ごろの記述に「兵庫店(みせ)」「大阪店(みせ)」とルビが振ってある。古い呼び方なのは確か。他社も、かつては「みせ」などと呼んでいたが、いつしか「てん」に変化したのかもしれない。

大丸心斎橋店では「だいまるしんさいばしみせ」と店内放送している(大阪市中央区)

大丸心斎橋店では「だいまるしんさいばしみせ」と店内放送している(大阪市中央区)

「店」という言葉の移り変わりについて、大阪歴史博物館の八木滋学芸員(日本近世史)に聞く。「変遷の詳細は不明ですが、中世の『見世棚(みせだな)』という言葉に由来するとされている」と教えてくれた。

江戸時代までには、小規模で簡素な店を「見世」と呼ぶ一方、大型で本格的な構えの店を「棚」と呼んで使い分けていたようだ。そのうち「店」の字を「みせ」と「たな」の両方に読み分けるようになったとみられる。

「てん」という新しい呼び方はいつごろ、どういうきっかけで登場したのか。専門家に聞いたが、多くは「漢字の読み仮名まで記した文献はほとんど無く、分からない」との答え。しかし、J・フロントリテイリング史料館の菊池満雄さんは「明治中期、上野の松坂屋を『松坂屋いとう呉服店(てん)』と名付けたところ、斬新だと話題になったらしい」と教えてくれた。「当時は『呉服だな』と呼ぶのが一般的。店を『てん』と読む例はほとんど無かった」。松坂屋百年史の編集に携わった菊池さんはそう話す。

「てん」が登場した背景ははっきりしないが、一般的に関東では関西に比べ音読みが好まれる。大阪商業大学商業史博物館の池田治司学芸員は「関西と関東では同じ漢字でも訓読み、音読みで割れる事例が多い」という。「例えば『本町』という地名は関西では『ほんまち』と読むのに対し、関東は『ほんちょう』が一般的」

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八木さんは「『てん』の呼び方は近代的というイメージができて、全国に広がって現在の主流になったのかも。一方、京都を中心に関西は『みせ』が一部で残った可能性がある」と推察する。

京都の儀式作法研究家、岩上力(つとむ)さんは、特に京都で「みせ」の呼び方が根強い理由を「先祖が大切に使ってきた言葉や習慣を重んじるのが京都人。『みせ』の方が優しい響きとみなす感性の表れかも」とみる。

現在は「みせ」という言葉遣いを気にかける人も多くなさそうだ。商業史と関西気質を伝える文化遺産の一種なのかもしれない。

(大阪社会部 藤井将太)

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