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和歌山電鉄「たま駅長」働きぶりは(謎解きクルーズ)

ねるこは招く? 地域に賑わい

2007年、和歌山電鉄貴志川線の駅長に就任して全国的な人気者になったネコ駅長「たま」。最近は各地で競い合うように動物駅長が就任し、乗客を和ませている。ところで、気になるのが彼らの日常。いったい駅長としてどんな業務をこなしているのだろう。

3月後半の晴れた日。JR和歌山駅(和歌山市)で和歌山電鉄へ乗り換える。内外装にイチゴをあしらったいちご電車に揺られること30分。終点の貴志駅(和歌山県紀の川市)に着くと、多くの見物客で賑(にぎ)わっていた。たまを優しく抱いた和歌山電鉄の小嶋光信社長が現れると「かわいい!」「あれがたま? やっと会えた」と大きな歓声が起きる。

この日は駅舎を利用した展覧会「夢二の猫版画」の開幕式。小嶋社長は慣れた手つきで、たまを抱いたままテープカットからあいさつへと移る。ところが、主役はご機嫌斜め。小嶋社長の腕の中で「ふーっふーっ」と威嚇する。耳を伏せ、毛が逆立ってきた。やむなくあいさつは中断、たまは駅舎内にあるガラス張りの「駅長室」に駆け込む。

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もともと駅売店の飼い猫だったたま。海外でも知名度は高い。観光のため夫婦で香港から来た沈旭昇さんは「初めての日本で昨日着いたばかり。京都や奈良よりもまずここに来た」と満足げだ。

式典後のたまはこんこんと眠り続ける。同社広報担当の山木慶子さんは「以前からよく寝る。もう16歳だし、前にも増して寝てばかり」と明かす。

人間で言えば80歳くらい。職務怠慢というより、お疲れさまとねぎらうべきか。何と言っても就任後、乗客は2割近くも増えている。まさに招き猫だ。

たま登場後、動物駅長が全国で相次ぎ就任した。会津鉄道芦ノ牧温泉駅(福島県会津若松市)はネコの「ばす」。駅舎内外で放し飼いされている。たまと同年配と見られ、日中はたいていホームのベンチで日なたぼっこ。駅長の自覚があるのか、制帽をかぶせられても嫌がらない。

北条鉄道北条町駅(兵庫県加西市)は子ざる駅長。月2回程度出勤し、車内で乗客と触れ合うのが主な仕事だ。山形鉄道宮内駅(山形県南陽市)のウサギ駅長はホーム脇の柵で囲んだスペース(駅長室)で草をはむ。12年に就いた伊豆急行伊豆急下田駅(静岡県下田市)のペンギン駅長3羽は惜しまれつつ、本日31日をもって退任する。

とりわけユニークなのは10年、阿佐海岸鉄道宍喰駅(徳島県海陽町)にお目見えした「伊勢ぇび」駅長だ。駅舎の水槽が「駅長室」で、水槽のふたの上に制帽が置かれる。

「地元の名産ですが、それだけが理由ではありません」と同社広報担当の平道知代さんが言う。赤い伊勢エビは脱皮を重ね大きく強くなる。同社も赤字体質を脱却し、成長軌道に乗りたいという願いを込めた。

もっとも、相手は動物だけに思い通りに事は運ばない。先代駅長は脱皮に失敗して死亡。慌てた関係者が地元漁師から伊勢エビを追加してもらい、現2代目が就任した。「赤字脱却に向け地道に取り組むだけです」。平道さんの面持ちは神妙だ。

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高速交通網が全国に広がり、各地のローカル線は常に廃線の危機と隣り合わせにある。人口減に悩む地方圏では正攻法で打開しようとしても手詰まり。動物駅長の多くは苦境を何とかしてほしいという切なる願いを背負って起用された。

マスコットや縁起担ぎにすぎないとしても、地方創生が叫ばれる今、彼らに課せられた使命は重い。応援してくれる人が増えるだけでも、動物駅長は十分役目を果たしていると言えるだろう。

(大阪・文化担当 田村広済)

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