自然の営み、新緑の中で 新宮晋の絵本「いちご」 ミュージカルに

2016/5/8 6:00
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風や水で動く彫刻で世界的に知られる造形作家の新宮晋(すすむ)が14日、兵庫県三田市の県立有馬富士公園内「新宮晋 風のミュージアム」で創作ミュージカル「いちごエクスプレス」を上演する。新宮のロングセラー絵本を下敷きに自然の営みの大きさをうたい、新宮ワールド初の舞台化となる。

ミュージカル「いちごエクスプレス」の稽古に励む出演者の子どもたち(兵庫県三田市)

ミュージカル「いちごエクスプレス」の稽古に励む出演者の子どもたち(兵庫県三田市)

いちごの精を思わせる白地に赤い水玉模様の衣装。森のこびとにふんした6人の子供が、畳の2倍もありそうな絵本の匂いをかいだり、寒さに震えたり。4月24日、有馬富士共生センター(兵庫県三田市)での稽古風景だ。

物語は新宮が1975年に発表した絵本「いちご」を踏襲して進む。原本を数百倍に拡大した巨大な絵本が舞台大道具の書き割りのよう。子供たちをリードする歌手のMIKIKOはフィナーレで、テーマソング(作詞は新宮)も熱唱する。

稽古は屋内だったが、本番は風をはらんで舞う彫刻が点在する屋外が舞台になる。ジャグラーが曲芸を披露したり、ポニーが籠に積んだいちごを背負って登場したり、池の周囲にミニSLを走らせたりと子供たちを喜ばせる演出が盛りだくさんだ。

風のミュージアムでは池の一部を囲う斜面の芝生を客席に見立て、昨年5月に薪能、同10月にジャズの公演を開いた。自らの作品を原作にした舞台は初めて。新宮は「これまでの2回はある意味、出演者にお任せだった。今回は自作を下敷きにしているため、制作に深く関与できる」と話す。

これまでに10冊の絵本を手掛けたが「いちご」はその第1弾。75年の刊行から24刷と版を重ね、愛読して育った人も多く、新宮の愛着もひときわ強い。日本語だけでなく、英独仏伊の4カ国語を併記しており、作品の持つテーマが普遍的なためか、中国や韓国でも翻訳・刊行されている。

「いちごが嫌いな人っているでしょうか。好きな人に悪い人はいないのでは」とほほ笑む新宮。季節を経て花を咲かせ、実になり甘く色づくいちご。その成長に自然や地球の営みを重ねて見れば、世界中の愛好者がつながる平和の連帯さえも夢想できそうだ。

国際色豊かな出演者が楽しい舞台に説得力を与える。神戸に住む元スイス総領事や日本・スペイン文化経済交流センター エクステンション代表ら、米国、ドイツ、インドなど様々な国籍のいちご好きに出演してもらうシーンがあるが、新宮は「私自身も出演して、会話を仕切ります」と笑う。

音楽を担当するのはジャズ・ギタリストの清野(せいの)拓巳。大阪府吹田市で育ち、米バークリー音楽大学卒。「絵本『いちご』で育った世代」といい、原作者を敬愛する47歳だ。

清野は「絵本の色彩と世界観に魅せられ、一時は画家を志していた」と明かす。音楽に軸足を移してからも人生の節目節目で新宮作品と出合ってきた。吹田市のホールで気になった彫刻と同種の作品がバークリーのあるボストンにあり、関西国際空港でも目に留まった。「一連の作品の作家があの絵本作家と同一人物とは。新宮さんは私の特別な存在」と強調する。

新宮作品に触発されたオリジナル曲を書き、収録したCDを昨年新宮に贈った。それがきっかけで、ミュージカルの音楽制作を持ちかけられた。挿入曲のほか、サックス、ドラム、ベース、打楽器、ボーカルで構成するバンドを率いて、書き下ろしの自作曲を披露する。

テーマソングはみんなで歌えるメロディーのはっきりした曲だ。本番当日は観客も合唱に加わってもらう。大人から子供まで「いちご いちご いちご」の繰り返しが新緑の自然公園に響くだろう。

(編集委員 岡松卓也)

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