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街・展示品との調和 重視 建築家 谷口 吉生さん

京博別館「平成知新館」を設計

米国のニューヨーク近代美術館(MOMA)など国内外で多くの美術館や博物館の設計を手掛けてきた。京都国立博物館(京都市東山区)の別館「平成知新館」のオープンを9月に控えるが、「この建物はまだ完成していない」と語る。背後には「展示する中身が入ってこそ完成する。器となる建物が重要なのではない」との信念がある。

知新館の設計を依頼されたのは16年前。MOMAなどと並行して取り組んできた。「ニューヨークの建物は太陽に向かうヒマワリのように高々と隆盛し、京都は岩に苔(こけ)がむすように低く町家が並んでいる」と両都市の対照的な印象を振り返る。

谷口吉生が手掛ける建築で最も重要なテーマが「調和」だ。敷地や周囲の建物、土地の歴史といった「街との調和」、そして美術館、博物館は展示品の背景であるべし、という「展示品との調和」の2つを意味する。

知新館で「まずこだわったのが入り口の軸」。京博の南門から入って北へ進むと入り口に。その直線をそのまま南へ延長すれば三十三間堂の南大門につながる。「本館と池を結ぶ東西の軸がもともとあった。碁盤の目状に成立した平安京の歴史を考え、自然と南北の軸を意識した」

建設中、谷口が入り口に設定した場所からは、豊臣秀吉が開いた方広寺の古い門跡が見つかった。谷口の意図が古くからの都市づくりにかなっていたということだろう。

建物の非対称性や室内にさりげなく掛かるすだれなど、日本らしい要素をちりばめた。注目すべきは外光の取り入れ方だ。古くからある日本家屋はひさしで直射日光を遮り、地面に反射した光は障子を通して、さらに絞り込む。建物の外と内とで光の階調が生まれる。

「ニューヨークでは明と暗のコントラストがはっきりしていたが、京都はその中間をいかに形にするかが問われた」。ロビーには、ひさしを思わせる屋根を設置し、壁面の擦りガラスでさらに自然光を絞り込む。

ロビーは「何も展示しない、人間がゆっくりくつろげる空間」。展示品は壁を隔てた所に置く。日本的な陰影との調和を考え、展示品との調和にも心を砕く。美術品などは極力光に当たるのを避けて保存しなければならない。「なんといっても主役は美術品。そして美術品と人をどう結ぶか。建築は一種の創作物だが、理想を言えば消えてしまったほうがいい」と笑う。

現在、国内の様々な美術館で建築家による斬新なデザインが取り入れられている。地域の象徴として話題作りにもなるが、谷口はそうした建築とは一線を画してきた。

知新館では9月13日から開館記念展「京(みやこ)へのいざない」を開催する。伝源頼朝の肖像画など、京都が生んだ名品を並べる。現在、何も展示されていない館内は驚くほど質素だ。「建物が展示品の邪魔をしてはだめ。解説も少ない方が良い。情報を読むためではなく、モノをしっかりと見に来てほしい」と思いをこめる。

(大阪・文化担当 安芸悟)

 たにぐち・よしお 1937年、東京生まれ。慶応義塾大学工学部、米ハーバード大学建築学科を卒業。酒田市土門拳記念館(山形県)、東京国立博物館法隆寺宝物館(東京・台東)などを手掛ける。97年、MOMAの増改築計画の設計者に選ばれ、2004年に完成した。80年と01年、東博法隆寺宝物館などで日本建築学会賞を受賞。「趣味は建築。仕事が一番楽しい」と仕事一筋に打ち込んできたが、「時折ゴルフでリフレッシュ」する。

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