平安仏教の伝統アピール 真言宗と天台宗、声明の競演

2017/2/26 6:00
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 仏教の経文に節や音程を付けて唱える声明(しょうみょう)。通常、法要の場などに限られる儀式音楽だが、一般向け公演が3月10日、KBSホール(京都市上京区)で開かれる。平安仏教の双璧ともいえる真言宗、天台宗の僧侶とその卵たちが、釈迦の命日(旧暦2月15日)にちなみ涅槃会(ねはんえ)向けの曲を取り上げる。

真言声明を唱える種智院大学の学生ら(京都市伏見区)
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真言声明を唱える種智院大学の学生ら(京都市伏見区)

 「南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)」。教室に集まった受講者が一斉に唱和し、何度も繰り返す。耳慣れたお経と異なり、リズムは一様でなく、抑揚も豊かに聞こえる。

 漢字で表記すれば一息で読み切ってしまうが、一音節一音節を慈しむように長く伸ばす。かと思えば、スパッと声を切るところも。おおむね短調のかなしい調べを思わせながら、よく聴くと繰り返しではあっても毎回、節や音程が少しずつ違うようだ。

 1月26日、種智院大学(京都市伏見区)で稽古を兼ねた講義を傍聴した。主に真言宗の僧侶を養成する大学だけに、声明の実習が履修科目に用意されている。

 唱えるのは「釈迦の教えに帰依します」を意味する「南無釈迦牟尼仏」だけではない。裏声を使ったり、喉を小刻みに震わせたり、コブシを回すようにしたり。場面によっては、民謡や歌謡曲の歌唱法の源流を思わせる感覚もある。

 「声明はもともとインドで音韻、文法などを修める学問分野の一つでしたが、次第に音韻や譜曲に関する分野が独立して、仏教儀式音楽のことを指すようになりました」

 種智院大学の潮弘憲教授はそう解説する。潮教授は全1200ページの解説書「南山(なんざん)進流(しんりゅう)声明大系」全2巻(法蔵館)を著した真言系声明の専門家。3月10日のイベント「平安千年の声明の調べ みほとけの音聲(おんじょう)」の公演当日は舞台で指導・進行役の式士を勤める。

 涅槃会は仏教の数ある法要のなかでも主要な儀式。釈迦の遺徳をしのぶために営む。80年の生涯を閉じようとする釈迦を囲むように、弟子や信者、獣や鳥が集まって嘆き悲しむ。そして釈迦は永久の悟りの境地・涅槃の世界に旅立つ。こうした劇的な場面を軸に、釈迦を賛嘆するという意義をまとった法要だ。

天台声明を唱える叡山学院の一同(大津市)
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天台声明を唱える叡山学院の一同(大津市)

 日本の声明の歴史は奈良時代、東大寺の大仏開眼法要の記録までさかのぼる。平安時代、唐に渡った空海、最澄が現地で学んで持ち帰った声明がそれぞれ真言声明、天台声明として日本に根を下ろした。

 ただ長大な演目が多く、譜面を記すのも、読むのも難しく伝承や習得には負荷がかかる。そのため、明治以降、廃仏毀釈運動のあおりも受けて廃れてきた。

 今回の真言・天台両宗の声明公演は、それぞれの宗派内にとどまらず、一般公開によって伝統の重要性をアピールしようと村主康瑞・種智院大学学長が発案した。種智院大学と天台宗の僧侶養成機関である叡山学院(大津市)が2015年に結んだ学術協定も後押しした。

 「もともとインドで発祥し中国を経て日本に伝わった声明だが、現在ではどこも途絶えてしまい、今日残っているのはおそらく日本だけ」というのは天台声明を研究する斉川文泰・叡山学院教授だ。

 斉川教授は欧州の教会に出向いて声明を唱え、現地のグレゴリオ聖歌の合唱とともに公演するなど、文化交流を重ねてきた。アジアでも声明の足跡を探し、手掛かりを探ってきたが行き当たっていないという。

 涅槃会の全編は真言宗で12時間、天台宗も涅槃講式が4時間半となるため、時間の制約から語句を省略したり、章を抜粋したりと、ハイライト形式での上演となる。平安二大宗派の声明がどう違うか。短縮版とは言え、聞き分ける貴重な機会といえる。

(編集委員 岡松卓也)

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