阪神選手の応援歌 どう生まれる(とことんサーチ)
1軍活躍が条件→団員から公募 虎戦士奮わす「背番号」
今年もプロ野球が開幕し、トランペットの音が球場に響く季節がやってきた。これまで運動記者として各球団の応援を見てきたが、やはり阪神ファンの応援は12球団屈指。その熱気を感じながら、ふと疑問が浮かんだ。「選手の応援歌(ヒッティングマーチ)はどうやって作られるのだろう」。応援団が作っているのは察しがつくが、個人専用の応援歌は選手全員にあてがわれるわけではないらしい。

阪神球団に問い合わせると、応援団で構成する「阪神タイガース応援団ヒッティングマーチ委員会」が中心的な役割を担っていると教えてくれた。日本野球機構(NPB)の許可がなければ鳴り物などの様々な活動ができず、阪神では全国30団体、330人超が認可を受けている。その代表の集まりが同委員会だ。
メンバーは約15人。2005年、ある私設応援団が作者不詳の応援歌を自分たちで作詞・作曲したと偽った著作権法違反事件を契機に発足した。以後、クリーンな組織を目指して著作権など全ての権利を球団に譲渡した。今季から委員長を務める男性団員(54)は「他球団の応援団に同じような組織があると聞いたことはない」と語る。

今季の開幕時点で専用応援歌があるのは鳥谷敬選手ら12人。選手の選別に基準があるのか、委員長に尋ねると「ある程度1軍に定着して活躍すること」との答え。毎年オフに委員会が選手を選んで全国の団員に作詞と作曲を公募。「多いときは6、7曲集まる」という候補の中から委員会が議論して決める。活躍次第でシーズン中に発表することもある。今季も若手数人の曲を、いつでもお披露目できる準備があるという。
選手の要望に応える場合もあり、能見篤史投手はその一例。原則、投手の専用応援歌は作らないが、「打席に入るときは打者の気持ちでいるので曲が欲しい」との希望を伝え聞き、14年に作成した。阪神の投手では野田浩司さん以来2人目という異例の待遇。

最近は音楽ソフトを駆使して曲を作る人もいる。元阪神の高橋光信さんや藤井彰人さんの応援歌を作った委員長は、「頭の中でイメージした音を一音ずつ探して入力していく」。意外にも、入団時から楽譜の読み書きができてトランペットを吹ける団員は多くなく、節に合うように指の位置を探し当てる「根性吹き」(同委員長)で曲を覚える。「だからドレミファの音階を順に吹けない人もいる」。作詞は選手の個性や打撃スタイルなどの特徴が出るように言葉を紡ぐという。
応援歌は委員会のホームページに告知されるが、事前に選手本人が聴くことはない。甲子園での応援の現場責任者を務める西尾浩幸さん(47)は「(選手に応援歌を与えるのは)一桁の背番号を与えるような感じ。責任がある」と話す。
6日の巨人とのオープン戦では、リーダーが甲子園の右翼席中央部の1列目に陣取り、戦況を見ながらトランペット部隊に合図を送り、応援の音頭をとっていた。その姿は指揮者のよう。「阪神伍虎会」特別顧問で大阪学院大学の国定浩一教授(75)は「阪神ファンの態度は、観戦ではなく参戦。戦いだから法被や鉢巻きを身につけて武装する」と語る。「応援団が統率して一体感があるから、相手に威圧感を与えられる」
金本知憲新監督の下、11年ぶりのセ・リーグ優勝を目指す戦いが始まった。甲子園の初戦は4月8日。ファンの熱い思いを込めた応援歌が響くだろう。
(大阪・運動担当 渡辺岳史)