大阪版ベタ踏み坂「なみはや大橋」(とことんサーチ)
運動によし、風景よし 人気も上り坂
大阪の港湾部に「なみはや大橋」という橋がある。車のアクセルをベタ踏みしないと上れないような急勾配だが、意外にも歩いて渡る人が多いと聞く。大阪版「ベタ踏み坂」の由来と魅力を探った。

大阪市営地下鉄の大阪港駅を降り、工業地帯を抜けて徒歩15分、なみはや大橋の巨体が目に入る。高さは47メートルとビルなら15階に相当する。勾配は6.9%。ダイハツ工業のCMで話題になった「江島大橋」(鳥取県―島根県)よりきついらしい。なぜこんな橋ができたのか。
大阪市建設局橋梁課の中村忠善さんに尋ねると「下に船を通すためです」と教えてくれた。淀川の河口は多くの船が行き交う水上交通の要所。なみはや大橋が架かる支流の尻無川は大型船の通航が多く、水面からの高さを47メートル以上にする必要があった。急勾配になったのはこのためだ。航路を確保するため、橋桁の幅も広くとる必要があった。

橋が開設されたのは1995年。当時、交通量増加で大阪市港区と大正区を結ぶ道路網を確保する必要があった。橋を架けるには学校や住宅を避けねばならず、今の場所にS字状の橋ができた。車両の通行は多く、市の2014年4月の調査では1日当たり8500台以上が利用した。
車での利用が便利なのは分かるが、歩いて渡る人が多いのはなぜか。曇りがちな土曜日、日ごろの運動不足に不安を抱えつつ往復してみた。
大型車両が通るたびに全長1.6キロメートルの橋が揺れる。歩けば対岸まで30分とあって自転車で通る人も多い。降りて引くよう注意書きがあるのに、下り坂でロードバイクをとばす人も一部にみられた。

おずおずと歩いていると出会った兼田孝則さん(67)が話してくれた。「急な坂を上るのも慣れた。夏は涼しくていいよ」。この3年間、大正区の自宅から港区に通勤するのに利用している。大正区の橋の多くは渡し船があるが、なみはや大橋は代替の交通手段が少ない。バスの本数も少なく時間が合いにくいらしい。
日常の通勤や通学に加え、観光目的で訪れる人も多い。母親と来た戎勝飛くん(5)は近くの博物館を訪れた帰り道に大きな橋を見掛けて歩きたくなったという。「暑かった」と汗だくだが記念写真を撮ってうれしそうだ。
急勾配を繰り返し往復するランナーも。「短距離で脚に負荷が掛かるのがいい」と杉原武典さん(66)。橋の開通以来、週2、3回走っており、この日は大阪マラソンを控えて走り込みだ。「最近は車の排ガスで空気が悪いけどここなら360度、市内を一望できる」と教えてくれた。

橋の最上部からはあべのハルカスや京セラドームが見え、梅田のビル群の合間からスカイビルがのぞく。晴れた日は六甲山や明石海峡大橋も見える。独特な景観が多くの人々をひき付けるようだ。
夕暮れ時、何往復目かで擦れ違ったランナーに声を掛けられた。「夕焼けが最高だよ」。ビルが真っ赤に染まるのが見どころで、晴天の日はカメラマンが押し掛ける。夜になると昼は見えなかった通天閣もハルカスの隣に見えた。
河川の多い大阪ならではの事情で生まれたなみはや大橋。すっかり老若男女が自由に利用する名所になった。この日は多いときで1時間に30人以上が通った。「毎日歩いています」と話すおじいさんに見送られ、重い足を引きずり帰路に就いた。今度は晴れた日に夕焼けを見に来よう。(大阪経済部 鈴木卓郎)