2019年8月21日(水)

鄭義信「ヴェニスの商人」を音楽劇に 関西勢結集、笑いと涙と

2017/2/19 6:00
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全編関西弁の音楽劇「歌うシャイロック」が24日から3月6日まで、神戸アートビレッジセンター(神戸市兵庫区)で上演される。脚本は「焼肉ドラゴン」などで知られる劇作家、鄭義信(チョンウィシン)。シェイクスピア「ヴェニスの商人」を歌や踊りを交えて大胆に翻案し、笑いと涙の群像劇に仕立てた。

「歌うシャイロック」の稽古に励むポーシャ役の剣(右端)ら(兵庫県尼崎市)

「歌うシャイロック」の稽古に励むポーシャ役の剣(右端)ら(兵庫県尼崎市)

「いつ終わるんや? いつおまえらの憎しみは消えるんや?」。主役である金貸しシャイロックを演じる孫高宏が稽古場で激しいセリフを放つ。

9日、山場となる法廷シーンの稽古が行われた。シャイロックは借金の形として、保証人アントーニオの心臓近くの肉1ポンドを要求する。演出を担う鄭は孫に「感情を一気にほとばしらせて」と注文を付けた。

シェイクスピアの戯曲には無かった部分で、ユダヤ人というだけで差別されるシャイロックがやるせなさを吐き出す。鄭は「『ヴェニスの商人』というとシャイロックがまず思い浮かぶが、意外に人物造形が書き込まれていない。僕が彼の立場だったらと膨らませた」と明かす。

2014年に韓国で上演、日本では初演となる。挑むのは日本でも珍しい公立の兵庫県立ピッコロ劇団(同県尼崎市)。元宝塚歌劇団トップスターの剣幸(つるぎみゆき)、劇団☆新感線の右近健一を客演で迎え、孫ら同劇団員と関西を拠点に活動する俳優の総勢22人で臨む。

鄭は「ヴェニスの商人」を原作にした理由を「(在日韓国人で)マイノリティーの僕が書くと面白いものになると思った」と話す。本作のシャイロックは関西の下町のどこにでもいそうなおっちゃん風。お金と娘ジェシカをこよなく愛するが、娘はキリスト教徒ロレンゾーと駆け落ちしてしまう。

その後は原作と全く異なる。娘は恋の夢に破れた後、むごい判決を受けた父のもとに戻るのだ。「父親があんな目にあったら、ジェシカは原作のようにのほほんとしていられない」と鄭。

演出の鄭(右)とシャイロック役の孫

演出の鄭(右)とシャイロック役の孫

剣演じる裕福なポーシャもひと味違う。男の法学博士に変装し、法廷でアントーニオを窮地から救う以外の役回りを持たせた。遺言で結婚相手を縛られながらも、いつの日か自立したいと願う女性だ。自ら決めた恋人に裏切られるジェシカと好対照をなし、物語に奥行きをもたらす。

剣は20年ほど前にも、ポーシャを演じた。「(前回は)シャイロックの要求が非道でも、こんな結末でいいのというわだかまりが残った。鄭さんの脚本はそこに切り込んでいる」

鄭版は原作の冒頭で語られた「憂鬱(ゆううつ)」を物語の背骨に据える。「ヴェニスの商人」が書かれた1590年代後半、シェイクスピアの祖国英国は大凶作に見舞われ、陰鬱な空気が国を覆っていたという。鄭は「憂鬱は今日に通じる空気感。移民問題などを考えると、作品のテーマは、韓国での上演時に比べても一層ビビッドになっている」と話す。

そんな不透明な時代だからこそ、「ヴェニスの商人」を原作にした戯曲を書き、日本でも上演する意味は大きいはず。孫は終盤のシャイロックの心持ちを「何もかも失っても、傷ついた娘を抱えてくじけてはいられない。ゆっくりとでも歩んでいかねば」と説明する。

それこそが本作のメッセージだろう。鄭はそんな意味を込めたラストシーンを用意しているようだ。

(編集委員 小橋弘之)

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