2019年6月17日(月)

「パン王国」関西 高級食パンの陣(とことんサーチ)
1斤400円前後 専門店続々 柔らかさ・熟成訴求

2017/1/21 6:00
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大阪市内はもとより、関西各地で、食パンだけを扱う専門店を多く見かけるようになった。もともと関西はパンの消費が多い「パン文化圏」で、街中にベーカリーがひしめく激戦区。そこに、あえて食パンに絞った「究極の単品経営」で参入が相次ぐのはなぜだろう。

エーワンベーカリーが運営する食パン専門店アトリエグーテ

エーワンベーカリーが運営する食パン専門店アトリエグーテ

食パン専門店の火付け役といわれるのが、大阪・上本町に総本店を構え「高級『生』食パン」を掲げる「乃が美」だ。2014年10月に1号店を開業したのを皮切りに、約2年で関東から九州まで25店に店舗網を拡大している。

出迎えてくれたのは阪上雄司オーナー。実は阪上さん、「くいしんぼう仮面」「えべっさん」といった覆面レスラーたちで知られる大阪プロレスの会長でもある。プロレスの慰問で訪れた老人ホームで、食パンの耳を残す人が多いことに気付き、専門店起業のきっかけになったという。「高齢者が耳まで食べられる、柔らかいパンを作ろう」と2年間かけて試行錯誤。一般的な作り方とは配合や手順を変え、短時間で焼き上げる独自の製法を開発した。

大阪・ミナミの地下街、なんばウォーク2番街に店を構える「アトリエグーテ」。京阪神でチェーン展開するエーワンベーカリー(大阪市北区)が初めて開いた食パン専門店だ。なんばウォークから出店を打診され、最初はフレンチトーストを扱う喫茶店を計画したものの、店舗面積が狭すぎると断念。「なんばウォーク内にある系列店と競合しないよう、食パンに特化した持ち帰り店を始めることにした」(エーワンベーカリーの勢理客賢次・営業事業部長)

16年10月、大阪市西区で開業したのは「高匠」。運営するのは、海外向けの食品販売宣伝などを手掛けるシンク・ファクトリー(大阪市北区)。「パンの国内市場は飽和しつつあるが、食パン文化がまだ根付いていないアジアには成長の余地がある」(同社の外山高士社長)とみており輸出への足がかりだという。

この2年間で関西では10店以上が新規開業したとみられる。関東にも食パン専門店はあるが「乃が美」のように大規模チェーン展開する店は大阪発祥。ブームは関西から広がっているといえそうだ。

背景にあるのが関西人のパン好き。パンの年間消費額の統計を調べると、関西2府4県の全県庁所在地と堺市が上位8位までにランクイン。関西が全国一の「パン文化圏」なのは間違いない。

一体なぜ今、食パン専門店なのか。

近年、コンビニエンスストアのパンの品質が大きく向上。多品種をそろえる地域のベーカリーは苦戦気味という。その中で「食パン専門店は店舗面積が狭いので初期投資が抑えられ、商品数も少ないため材料や在庫の管理がしやすい。時代に合った業態」とエーワンベーカリーの勢理客さんは指摘する。

売り上げはいずれも好調という。乃が美は「開業以来、月間売上高が減ったことは一度もない」。多くの店が閉店時間前に完売してしまうという。各店ともリピーター率が高く、手土産としてまとめ買いする客も多いという。

関西の食に関する情報誌「あまから手帖(てちょう)」の中本由美子編集長は「2000年代初め、フランスやドイツで修業した職人が作る欧州風の本格的なパンがブームになったが、ある程度行き渡って飽和状態になった。基本の食パンに回帰してきたのでは」とみる。

専門店の食パンは1斤400円前後。スーパーなどに並ぶ全国ブランドの商品に比べれば3~4倍する。関西人は価格にシビアなはずだが「『高級』とはいっても2斤で1000円以下。手の届く贅沢(ぜいたく)感が今の時代にあったのでは」と乃が美の阪上オーナーは分析する。

もともと関西は中小ベーカリーが多く、各地の有名店の食パンが百貨店食品売り場で定期的に販売される目玉商品になっているほどだ。関西発の「プチ贅沢」は一過性ではなく、このまま定着していくかもしれない。

(大阪・文化担当 小国由美子)

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