平安貴族みたいに蹴鞠したい(とことんサーチ)
すり足で速く 優雅にぽーん 勝ち負け無し、奥深く

2015/11/21 6:01
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京都御所や下鴨神社などの年中行事で目に触れる蹴鞠(けまり)。風雅あふれる光景だが、鞠を蹴っているのはいったいどんな人たちなのか。一般の人も参加できるのか。球技として難しいものなのか。そんな疑問が浮かび、蹴鞠の技を継承、披露する蹴鞠(しゅうきく)保存会(京都市)の門をたたいた。平安貴族もすなる蹴鞠といふものを、現代人もしてみむとてするなり――。

蹴鞠の練習をする蹴鞠保存会の人たち(京都市上京区の白峯神宮)

蹴鞠の練習をする蹴鞠保存会の人たち(京都市上京区の白峯神宮)

京都市上京区の白峯神宮は平安時代から代々、蹴鞠を伝えた公家の家系、飛鳥井家の屋敷跡に立つ。蹴鞠の守護神を祭り、サッカーなどスポーツ選手の参拝や奉納も多い。10月下旬の好天の日曜、境内に十数人の老若男女が集った。古風ゆかしい装束に着替え、「鴨沓(かもぐつ)」という専用の履物でそろえている。庭で輪になって鞠を蹴る彼らこそ保存会のメンバーだ。

早速、記者も参加した。通常、8人または6人が輪になって鞠を蹴る。鞠は直径19センチ前後、重さ100~110グラムで、サッカーボールより一回り小さい。やや楕円形で2枚の鹿革を馬革で縫い合わせている。触ると意外と弾力がある。そのためか、足に当ててもあらぬ方向に飛んでいく。うまく蹴ったと思っても「サッカーとは違います。優雅に蹴りましょう」と、保存会の一員、山本隆史さんからたしなめられた。

最初から輪に加わるのは難しそうだ。「まずはこちらへ。脚の運び方から練習です」。山本さんに導かれて境内の一角に。バレーボールがひもでつるされている。「フォームに気をつけ蹴ってみましょう」

何より「うるわしく」蹴るのが大切だという。足首を直角に保ち、膝は曲げず、股関節を動かすだけ。なるべく地面の近くで鞠を蹴るのは、装束を着て蹴った時に美しく見えるからだ。蹴り上げた鞠の回転が適度で、1丈5尺(約4.5メートル)ほどの高さまで上がり、蹴った時にぽーんと抜けるような音がすればなお良いのだとか。

もう1つのポイントがすり足だ。足の裏を地面からなるべく離さず、素早く歩を進める。走らず、すり足で股関節だけを動かす。言うのは簡単だが、ボールを足に当てようと意識するあまり、この動きが崩れてしまう。サッカーなどボールを蹴る球技の経験がかえって邪魔になることもあるという。

蹴鞠専用の履物である鴨沓

蹴鞠専用の履物である鴨沓

蹴鞠は古代中国で原型となる球技が生まれ、1400年ほど前に中国から伝わった。貴族の間で盛んになり、和歌などと並ぶ重要なたしなみとされた。江戸時代には庶民に広がり、女性愛好者も多かった。だが明治維新後は急激に衰退。途絶える寸前だったが、明治天皇の「蹴鞠を保存せよ」との意向で保存会が設立され、今に至る。

現在、会員は35人。うち7人が女性で、年齢層は20代から80代までと幅広い。会員は蹴鞠をたしなむ家系の人々というわけではなく、会社員や主婦、医師、教師、経営者など様々。月2回ある練習に新幹線で通ってくる東京在住者も何人かいる。

蹴鞠で使用する鞠

蹴鞠で使用する鞠

新規会員も募集中だが、入門後、1年以上はすり足の練習ばかりが続く。中途半端な気持ちでは続かないだろう。

理事長の上田恒弘さんによると「蹴鞠は世界でも珍しい勝ち負けの無い球技です」。誰が蹴るかを瞬時に判断し、各人のクセや好みを把握し合い、思いやりを持って優雅に蹴る。「まさに『和をもって貴しとなす』。日本古来の精神を現在に見事に伝えるのが蹴鞠なのです」

うーん、何とも奥が深い。一通り基本練習をしたところで再び輪に入った。「股関節、すり足」と何度もつぶやきながら鞠を追う。これでどうだっ。自分としては会心の蹴り。鞠が青空に白い弧を描く。「結構うまくなったよ」。山本さんの一言で心も晴れ上がった。

(大阪・文化担当 田村広済)

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