2017年12月17日(日)

ご神木、鉄路と生きる 萱島駅のクスノキ(未来への百景)
大阪府寝屋川市

2015/2/17付
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 京阪電鉄萱島駅(大阪府寝屋川市)を遠くから眺めると、屋根の上に緑の葉っぱが生い茂っている。まるで巨大なブロッコリーを駅舎に載せたみたい。電車が止まると、部活帰りの学生やスーツ姿の会社員がホームにドッとはき出される。せわしなく往来する電車が大きな木の下で一息ついているようだ。

電車が行き交う京阪萱島駅のホーム。クスノキの枝葉が屋根を覆う

電車が行き交う京阪萱島駅のホーム。クスノキの枝葉が屋根を覆う

 幹の周囲7メートル、高さ20メートルの巨大クスノキは駅高架下にある萱島神社のご神木。約700年前の鎌倉時代から立つ。萱島駅が現在の形になったのは1980年。なぜ巨木がホームを貫通するデザインになったのだろう。

 「土地を守ってくれている大事な氏神さんのご神木を切るとは何事や、と地元住民が立ち上がったんです」。近くに住む萱島神社代表総代の古箕(ふるみ)豊さんが当時を振り返る。

 高度成長期の72年、郊外の人口増加に対応して京阪電鉄は土居駅(同守口市)から寝屋川信号所(同寝屋川市)までの高架複々線化工事に着手した。萱島駅は少し南側に移動することになった。

 そこには萱島神社があった。京阪電鉄は神社境内と隣接地を買収したが、地元住民からクスノキの保存運動が起こる。中心になったのが豊さんの父、繁雄さん。京阪電鉄の社長に直談判するため、仲間と連れだって出かける父の姿を豊さんはよく覚えている。

 ご神木を切ればたたりがある――。そんな噂もささやかれた。豊さんは「沿線に大きな事故でもあれば大変、という文句がだめ押しになった」と笑う。願いは通じ、駅舎をくりぬいてクスノキを保存することになった。「工事費用もずいぶん余分にかかったとか。ありがたいこと」

 ホーム上の幹の周囲は透明なアクリル板で囲まれている。鉄骨製の天井を見ると枝の一部が屋根に食い込んでいた。この10年間は枝を切っていないというが、少しずつ成長し続けているのだろう。

 高架下におりると、クスノキの根元にはしめ縄が巻かれていた。京阪電鉄が立てた看板に「クスノキに寄せる尊崇の念にお応えし(中略)後世に残すことにしました」とある。住民の思いが込められた巨木。根元から上を見上げると、ホームにぽっかり空いた穴から夕焼けが見えた。

文 佐々木宇蘭

写真 三村幸作

〈取材手帳から〉 大胆な設計が目を引く萱島駅は1983年、「冷たい感じのプラットホームに緑を添え、乗客を楽しませている」として大阪都市景観建築賞奨励賞を受賞した。クスノキも「大阪みどりの百選」などに選ばれている。当初はカメラを持った観光客が全国各地から訪れたという。
 常緑樹だから1年中、青々として枯れることはない。電車を待つ間、上から鳥のさえずりが聞こえたらさぞ気持ちよいだろう。
 想像を膨らませるが、近くに住む主婦(67)は「あまり意識せんねえ」と素っ気ない。それだけ巨木が日常に溶け込んでいるということか。

〈カメラマン余話〉 駅のホームでクスノキに近寄ると、枝ぶりはよくわかるが全体が見えにくい。ホームの屋根を突き抜ける「異様」な光景を切り取ろうと、許可を得て近くのマンションの外階段へ出る。見下ろすと、こんもりとした緑が街に不思議な彩りを添えていた。

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