「水都大阪」カヤックの旅(とことんサーチ)
グリコの看板、別世界の迫力 ルール学べば誰でも
大阪中心部の活性化策を取材していると「水都大阪」という言葉をよく聞く。そう言われてもどこか川は脇役のような遠い存在だ。天神橋からゆったりと流れる川を見てひらめいた。「大阪の街をカヤックで巡ってみよう」。思いつきを決行してみると――。
まずは関西一円でツアーを行うカヌー、カヤック専門店「Kayak kono-tori」(兵庫県尼崎市)に問い合わせた。中岡邦豊店長(44)は「川でカヤックをするのは自由」と教えてくれたが、都市部の川にはルールがあるという。「安全のためにもまずはツアーなどで学ぶべきです」というので案内をお願いした。

2月下旬の朝、京阪天満橋駅近くの「八軒家浜船着場」(大阪市中央区)に着くと、中岡店長らがカヤックを組み立ててくれていた。その間に船着き場横の川の駅「はちけんや」に行き、NPO法人「大阪水上安全協会」(同)に利用料500円を払い、利用者一覧に記名。同協会は安全のために公共船着き場の利用を勧めている。
この日に合わせて集まってくれた愛好家ら総勢6人で出発した。パドルで水をかくとスーッと進み気持ちがいい。コースは運河の東横堀川と道頓堀川を往復する約8キロ。大阪湾の潮の満ち引きの影響がなく、体力の消耗が少ないルートだ。
「右側を進み、船が来たら止まってやりすごしましょう」。インストラクターの片岡英明さん(51)から声がかかる。観光船などが増えた大阪市内の8河川では2007年、府市や業者が協議し、「右側通航」などのルールを明文化。今回は通らないが、航路が狭い一部区域は通航船の優先順位も決められており、川の駅にあるパンフレットなどで確認が必要だ。
すぐに東横堀川水門にぶつかった。教わったとおり、通航日時は事前に水門を管理する大阪市建設局に伝えてある。大きな両開きの水門がゆっくりと開き、通過した先は阪神高速の下。高い壁に囲まれ、地上が遠く感じられる。レース編みのような橋の裏の鉄骨や、ルネサンス調の橋脚など、川でしか見られない風景に目を見張った。

約3キロをこいで右に曲がると、一気に視界が開け、道頓堀に着いた。観光客からカメラを向けられるのが少し恥ずかしい。江崎グリコの看板の下で、足元からランナーを見上げると、改めてその巨大さに驚いた。
後日、中岡店長にほかのお薦めルートを聞いてみた。都市景観の魅力を満喫できるのは夜間。ライトアップされている橋が美しい。春には大川で花見をするのもいい。屋形船を避ける技術はいるが、川側に垂れかかる桜の間近を航行することも可能だという。
最後に、委託を受け八軒家浜船着場を管理している「日本シティサップ協会」(同)の代表、奥谷崇さん(48)に会いに行った。同協会は立ちこぎ用の「SUPボード」の体験ツアーなども行っている。奥谷さんは「川で人が遊べば街は活性化する。ルールと安全に気をつけて楽しんでほしい」と強調した。
川を散歩しながら見た大阪の街はまさに"別世界"だった。次はどこに行こうかな。一人で気ままに浮かぶにはまだ早いが、早くも次の機会が待ち遠しい。
(大阪社会部 佐野敦子)