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文楽教室、大役に挑む2人 先達から体得の技披露

人形浄瑠璃文楽でも屈指の人気演目、近松門左衛門作「曽根崎心中」が国立文楽劇場(大阪市)の公演「文楽鑑賞教室」で上演中だ。愛に殉じる遊女お初と醤油屋手代の徳兵衛は人形遣いが「いつか勤めたい」と願う大役。吉田幸助(49)と吉田一輔(いちすけ、45)の気鋭のコンビが挑む。

徳兵衛を遣う幸助は舞台生活34年、お初を遣う一輔は同30年。共に初役で、「こんなに早く頂戴できると思っていなかった」と大役に臨む喜びを口にする。

文楽は芸に習熟するまでに長い年月を要する。2人はまだ気鋭といっていい。一般的な文楽公演は期間中役は入れ替わらないが、鑑賞教室は公演の前後半、さらに各午前と昼の部でそれぞれ演者が変わる。そのため、2人にチャンスが巡ってきた。文楽を長年支えてきた人間国宝の太夫、竹本住大夫は「2人に期待している」と話す。

大きな見せ場が「天満屋の段」。中でもお初が天満屋の縁先に腰をかけ、縁の下に忍ぶ徳兵衛に心中の覚悟を問う場面だ。徳兵衛はお初の片足を自らののど笛にあててなで、お初と同じ覚悟だと伝える。

文楽人形は1体の人形の首(かしら)と右手を「主(おも)遣い」、左手を「左遣い」、足を「足遣い」の3人で遣う。足を介してお初と徳兵衛の心の機微を表現するには3人の呼吸が合わなければならない。しかし、お初が縁先に腰掛けている時、主遣いには足が見えない。

吉田幸助
吉田一輔

一輔は「主遣いが『ここだ』と思うタイミングを、いかに足遣いにくみ取ってもらい足を動かすか」をポイントに挙げる。通常は主遣いが左遣いや足遣いに合図を送るが、この場面は「合図なしに、主遣いの気持ちを足遣いが感じ取っての演技になる」(一輔)。

一方、徳兵衛は縁の下にかがんで隠れている間、主遣い1人で人形を操り、首と右手だけで演じる。この場面で左遣いと足遣いは人形から離れるためだ。

幸助は「まだ、やったことがないので」と多くは語らない。もっとも、徳兵衛の人形をかがみ込んだ状態で保つだけでも、肉体的にはかなりの負担になる。

曽根崎心中は1703年、大坂・曽根崎の天神の森で起きた情死事件を、近松が劇にした。その時代の庶民を題材にした「世話物」を確立した記念碑的な作品とされる。

明治中期、いったん上演が途絶えたが、文楽では1955年に初代吉田玉男が徳兵衛、二世吉田栄三(えいざ)がお初を遣って復活。以後、屈指の人気演目になり、初代玉男は延べ1136回も演じ、生涯の当たり役にした。お初は栄三に続いて、当代の吉田簑助らが勤め、玉男と共に振りを練り上げてきた。

その玉男や簑助の遣い方が、現在の手本になっている。玉男や簑助が主遣いを勤めた舞台で、左遣いや足遣いを担った二世玉男、三世桐竹勘十郎らが師匠から体得した。

ほかの登場人物の演者も同じ。手取り足取りの稽古はない。舞台での共演で師匠や先輩のやり方を吸収し、自身の出番に備える。それが文楽における芸の伝承だ。幸助や一輔もそうやって覚えてきた。

2人は今回の大役が決まった後、時間が空くと曽根崎心中の浄瑠璃を頭の中で繰り返し、イメージトレーニングを重ねてきた。5日から鑑賞教室の前半が始まっており、二世玉男や勘十郎らの舞台を見て、少しでも自身の芸に生かそうと努めている。12~18日の後半は2人が先輩から体得した現時点の最大限の芸を披露する舞台となる。

(編集委員 小橋弘之)

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