一門で臨む最後の舞台 文楽太夫 豊竹 嶋大夫さん
1、2月に引退公演

2015/12/13 6:01
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人形浄瑠璃文楽の太夫で人間国宝の豊竹嶋大夫(83)が2016年1月、国立文楽劇場(大阪市)の初春文楽公演で引退披露狂言「関取千両幟(のぼり)」に出演する。三味線の鶴澤寛治(かんじ)、人形遣いの吉田簔助(みのすけ)という2人の人間国宝が共演。掛け合いの語りには弟子たちが勢ぞろいし、最後の舞台を彩る。

■弟子への稽古続けたい

「引退にかけて、劇場が一門でやらせてあげようという親心だと思う。うれしいし、ありがたい」。嶋大夫は顔をほころばせる。弟子は現在6人。現役の太夫としては最も多い。「ご覧になる人もいい弟子を育てたと思ってくれるのでは」と感慨深げに話す。

「関取千両幟」は江戸後期に大坂の人気力士だった猪名川(いながわ)と鉄ヶ嶽(だけ)の活躍を題材にした物語。ひいき客の礼三郎から遊女錦木(にしきぎ)を身請けする金の工面を請け負った猪名川。ライバルの鉄ヶ嶽から身請けしたいなら相撲に負けろと八百長をほのめかされる。

大事な相撲で勝ちを譲る悔しさに男泣きする猪名川だが、取り組み中に200両の懸賞金がかかり、見事鉄ヶ嶽を打ち負かす。しかし、その金は女房のおとわが身を売って調達したものだった。

嶋大夫は掛け合いで、おとわを演じる。自身の希望ではなく、文楽劇場から勧められたという。過去にも何度か勤めてきた役だが、「今思うと、相撲取りの女房になっていなかった気がする」と厳しい目で振り返る。

1967年に亡くなった師匠、十世豊竹若大夫の舞台は「相撲取りの女房らしいスケールの大きさがあった」という。おとわについて「夫の猪名川に金がいるという時に、自ら身売りをするきっぷのよさがある。あまり小さくならないようにしたい」と気を配る。

聴かせどころは、勝ちを譲る決心をした猪名川の髪をおとわがすき、相撲場へと夫を送り出す際に「相撲取りを男に持てば、江戸や長崎や国々へ……」と語る部分。「つらいとかいうのではなく、華やかに聞こえるように乗っていきたい」という。

掛け合いでは、十世若大夫の孫に当たる豊竹英大夫(はなふさだゆう)が猪名川を勤める。また、弟子の竹本津國大夫(つくにだゆう)、豊竹呂勢大夫(ろせたゆう)、始大夫(はじめだゆう)、睦大夫(むつみだゆう)、芳穂大夫(よしほだゆう)、靖大夫(やすたゆう)と一門が顔をそろえる(芳穂大夫と靖大夫はダブルキャスト)。

「まだ一本立ちはさせられないので、舞台からは引退しても弟子への稽古は続けたい」。嶋大夫は引退後も後進の指導に強い意欲をみせる。

物語の山場を語る太夫を「切り場語り」と呼ぶ。2年前には4人いたが、人間国宝の竹本住大夫は昨年引退し、竹本源大夫は今年7月、鬼籍に入った。嶋大夫が来年2月の国立劇場(東京・千代田)公演を終えて退くと、現役の切り場語りは豊竹咲大夫1人になる。文楽を後世に伝えていくためにも、新たな切り場語りの育成は急務だからだ。

1、2月の公演は嶋大夫が今年、人間国宝に認定されてから初めての舞台でもある。簔助がおとわを遣い、寛治が「猪名川内」を弾くなど、人間国宝3人の顔合わせも注目だ。「簔助さんとは女形を一緒にやったことが多い。寛治さんとは若い頃から一緒にやってきた。久しぶりの手合わせだから楽しみ」という。

嶋大夫は48年に十世若大夫に入門し、初舞台を踏んだ。しかし、55年にいったん文楽を辞め、別の仕事に就いていた異色の経歴を持つ。12年間のブランクを経て68年に復帰。全身全霊を傾けて表現する語り口で文楽の情を伝え、人間国宝まで上り詰めた。「千秋楽は泣きながら語るんじゃないか」。万感の思いを携えて初春の舞台に立つ。

(大阪・文化担当 小国由美子)

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