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いけす工夫 衝突死抑える 海を耕す(3)

軌跡

11年間卵を産まなかった近畿大学水産研究所のクロマグロが1994年7月3日、再び産卵を始めた。87年からいけすで育てたヨコワ約3200尾の中から7年を生き延びた約200尾だ。釣る時の針は返しを削って外しやすくし、バケツをうまく使って魚体に触れずに水槽に移すなどの工夫が実り、長生きするようになった。

だが貴重な卵からふ化したマグロの子供が水槽の壁にぶつかって衝突死するケースが相次いだ。マグロは推進を担う尾びれが、動きを制御する胸びれや腹びれよりも先に発達する。ハンドルのない自動車を運転するようなもので、衝突事故を起こすのは当然だった。

「マグロは目がいい。梅雨や台風の大雨で川から流れ込む泥水や、いけすの近くを走る自動車のヘッドライトや落雷の稲光を見るとパニックを起こし、猛スピードで壁や網に突進し骨折で死ぬ」と第3代所長、熊井英水は語る。最初は6メートル四方の角形いけすだったのを、88年から直径30メートルの円形大型いけすに切り替えた。照明をあてて子供を1カ月ぐらい光に慣らし、さらにいけすを遮光シートで覆うなどしてパニックを抑制すると衝突が減った。

2002年6月23日、卵から育てたクロマグロが産卵した。クロマグロの完全養殖という32年越しの夢がついに実現した。04年9月には完全養殖の3尾を大阪・梅田の阪急百貨店などに初出荷、即日完売した。「近大マグロ」は食卓にも受け入れられた。「不可能を可能にするのが研究だろう」。近大初代総長、世耕弘一の言葉が今になってよく分かる。

熊井は「いけすを見に行くための2級船舶免許は持っているが、自動車の運転免許をとる時間がなかった」と話す。不便はある。だが養殖にささげた人生に悔いはない。(敬称略)

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