2019年6月20日(木)

聖なる華 仏に彩り 散華美術館(未来への百景)
奈良市

2015/7/14 6:00
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一弁の蓮(はす)の花びらをかたどった、手のひらほどの厚手の紙片。「散華(さんげ)」と呼ばれ、蓮や梅、桜、シャクヤク、キキョウといった花、鳥や仏像、堂塔などが色鮮やかに描かれている。あでやかな舞妓(まいこ)に「あしたのジョー」といったマンガの主人公らもいる。

花鳥風月やおなじみのキャラクターなどが法要を彩る

花鳥風月やおなじみのキャラクターなどが法要を彩る

筆を執ったのは杉本健吉、平山郁夫、榊莫山ら高名な画家、書家をはじめ、ちばてつや、やなせたかし、藤子不二雄(A)、赤塚不二夫らの漫画家も目立つ。

「漫画・アニメの主人公は仏教離れが進む世代にもアピールできる。作者に一つ一つ書き下ろしてもらいました」と明かすのは漫画家の作品を手がけた薬師寺(奈良市)の加藤朝胤執事長。

6月2日、散華をまく様子を取材する機会に恵まれた。薬師寺で、西塔内陣に奉納された釈迦八相像の落慶法要が開かれた。式典特有の厳かな声明が響くなか、要所要所に立つ僧侶が、片手で掲げた花籠(けこ)から散華をつまみ、節目節目で一斉に投げ放つ。一つ一つが宙に舞い、散っていくさまは、大きな動きが乏しい儀式に鮮やかな彩りを添える瞬間だ。

散華を収集・展示している散華美術館(同)を訪ね、秘蔵品などを見せてもらった。「制作者は原則として寺院の趣旨に賛同してくれた人ばかり」というのは画家で同美術館の館長を兼ねる原田千賀子さん。

専門の研究者が少ないため、詳しい歴史は不明。だが「散華が注目されるようになったのは1960年、唐招提寺の南大門修復完成を祝う法要がきっかけでは」と美術館を運営する美術散華保存会の岡村元嗣顧問はみる。

古い散華を集めていた唐招提寺の森本孝順長老(当時)が所蔵品を基に花の絵柄を木版画として作り直した。無数の散華が空を舞い、法要を彩った。この演出が鮮やかだったことから、デザインに凝った散華が増えていったという。

原則は式典向けの限定品で、一般の人が入手するのは難しい。儀式で残ったものが寺院で販売される場合もあるが、売り切れても増刷されることはまれだ。

こうした希少性と美術的価値から認知度が広がり、近年収集家が増えた。一枚の散華には作者の美意識と、いつしか絶えてなくなることを受け入れるはかなさが宿っている。

文 編集委員 岡松卓也

写真 浦田晃之介

<取材手帳から> 散華は寺院の堂塔完成や仏像の奉納などを祝う法要で、仏を供養し、式典を清めるため、花をまいたことに始まる。本来は蓮の生花を用いたようだが、いつしか花びらをかたどったものに代用されていった。古くは正倉院(奈良市)に散華とみられる色紙が収蔵されているほど。
 近年は華やかな絵柄や色彩のものが増え、美術的な鑑賞価値が高まっている。半面、台紙の紙質が厚手になってしまい、宙に投げたとき奇麗に舞わずに落ちてしまう難点がある。このため最近は、小さい薄手の紙でできた簡素版と、厚手の紙製の2種類を用意するのが通例になりつつある。

<カメラマン余話> 宙を舞う散華を真下から見上げたら――。そんな構図をイメージしながら用意したのは、長さ1メートル、幅70センチの透明アクリル板。2脚のテーブルの間に渡して作品を裏返しで並べ、下に潜り込む。一部を実際にまいてもらい、スローシャッターを切って動きを加えた。

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